第31話・わんことにゃんこのワンダフルデイズ その5
わたしには夢があります。
それはいつの日か、わんことにゃんこが互いの属性によらず、わたしへの愛情によってのみ相認めあい、やがてわたしの部屋が平和になるという夢です。
わたしには夢があります。
それはいつの日か、谷間の深さによらず、あらゆる山と谷は同じ価値を持ち、でことぼこの高さ深さで人が相争うことのない世界になるという夢です。
わたしには夢があります。
この業の深さはまさしく眠りの深さによってのみもたらされるもので早い話がわたしは夢をみているという夢です。
わたしには夢があります。
わたしには夢があります。
わたしには夢があります。
わたしには夢が
「…いーかげん起きたらどうだ?アコ」
いえいえお構いなく。わたしはまだ眠れる森の美女…はちょっと図々しいので白雪姫くらいにしておきましょうか。毒リンゴで眠らされた白雪姫は王子さまのキスで目覚めるのです。うっふん。
なのでもー少し寝かせてくださいね。あいむすりーぴんぐびゅーてぃ。ぐんない、アプロ。
「おい」
………そう、わたし、毛布の中。
同じ毛布の中に、もう一人。
ディス・イズ・SHURABA。
修羅場キタ━━━━━━━━ッ!!…って言ってる場合ですかっ?!
「違うんですこれわっ!!」
圧に耐えきれず毛布を蹴飛ばしベッドの上に跳ね起きました。
ちなみに足下ではベルがまだおねむです。この状況でまだ寝転けてるとかどんだけ神経太いんですか、この子。
「…ん、アコぉ……もっとぉ…」
そして狙いすましたかのよーに物騒な寝言。もしかしてこの子起きててわざと言ってるんじゃないでしょうねっ?!
「…ははは、アコは昨夜は楽しい時間を過ごしたみたいじゃないか。うらやましいなー…私はさー…待ち構えてた教会の客だとかさー…王城からの使いだとかさー…そんなのと一緒に砂を噛むよーなご飯食べてたのになー…」
「とりあえず落ち着きましょう、アプロ」
「大丈夫。落ち着いている。これ以上ないくらい」
「…じゃあ、なんで完全武装でこの部屋にいるんです?」
はい。旅の時…というか、魔獣を相手にするときの、アプロの全力仕様です。聖精石の剣から鎧まで、完璧に戦闘態勢です。気合い入りまくりんぐです。
「やだなー、アコ。この格好こそが冷静でいる証しじゃないかー」
「…ちなみにどんな経緯と手順でその格好に?」
「ん?部屋に入ったらそこの…」
と、剣先でまだ寝てるベルを指しながら言います。
「泥棒猫がいるのに気付いたから、一度帰って着替えてきた。そりゃあもう、念入りに準備したんだぞ?昨日脱いだばかりだったから、まだ埃まみれだったのを、わざわざキレイにしてから戻ってきたんだ。そしたらさ…」
思わずわたしが息を呑むよーなイイ笑顔です。
「……まーだ二人揃って寝てんだもんなー。そのまま並べて(ピー)してやろーかと思ったもんなあ」
姦夫姦婦を重ねて四つに、って江戸時代じゃないんですからっ!
ちなみに(ピー)の部分はわたしが理解を拒否した部分です。念のため。あのかわいいアプロの口からそんな単語が出るなんてアリエナイ。
てゆーかベルもそろそろ起きてくださいってばっ!
割とリアルに命の危険なんですよあなたとわたしのっ!
慌てて足下で気持ちよさそーに寝息をたててるベルの体を揺すります。最早わたしのそんな所作でさえアプロの気に障るのか、剣先を床で引きずりながら、一歩、一歩と近付いてくるのです。洒落になってませんっ!
「ベルベルベルーっ!起きて起きて起きてってばーっ!!」
「ん………んーん、もうすこひぃ…」
「あなた先に天にも昇る気分になってって違いますそうじゃないです今起きないと天上に直行便なんですから起きて下さいいいからはよおきんかいこの胃拡張娘ーっ!!」
「ぎゃふっ?!」
耳元で怒鳴ったらさすがに飛び起きたのでした。ていうかそのまま正座の体勢。器用な子ですね。
「んな…?なー、アコ…何が起きてー…?」
「おはよう、クソ猫。ひとの留守中に入り込んで随分楽しそうじゃないか」
「んあー……あー、あー……っふう。うーん、よく寝たな…おはよう、アコ」
「わたしじゃありません、あっち見て、あっち」
「あっち?」
ぐりんと首をまわしてアプロを見ます。そしてどんなことを言うのかは大体分かりますけどね…大ボケて「おはよう、アプロ」かもしくは居丈高に「なんだ、いたのか」とかそんなか
「むぎゅ」
「…やらんぞ」
…ふ、起きるなりわたしをハグして「やらんぞ」とかもー、ベルもすっかりオトナですね。わたしをドキドキさせるなんて、ななかかなかかなかででできるもももなりませねべぷしっ。
「………おい。アコを離せ」
わたし絶賛こんらんちゅー。
も、勝手にして下さい。
「……退け」
「……お前こそ出ていけ」
よくは見えませんがアプロが剣を振りかぶる気配。この部屋そんなに天上高くないはずなんですけど。
「……斬るか?」
ベル、わたしを離して背中にします。あのー、この体勢だとアプロが悪者になりそーでわたしとしてもちょーっと…。
と、流石にベルを止めようとしたんですが。
「…え、ベル?」
かざしたわたしの手の先で、ベルの髪が、きれいな金髪が波打ちます。
慌てて正面にまわると…。
「ベルっ?!」
…その美しい金銀妖瞳が、鮮血でもたたえたように一様に真っ赤になっています。
「……寄るな二人とも。さもなくば」
いつもより抑えの利いた声。初めて会った時のような、身のあり方にどこか飽いたような印象のある抑揚の無さではなく、そこにあるものを知られることを恐れる、怯えた響きでした。
「さもなくば、何だよ」
対照的に闘志をみなぎらせる、アプロの声です。
「おもしれー。口先だけじゃないってことを証明してみろ」
「あのアプロー?今ベルを怒らせたりしないほーがいいと思うんですよ?わたしの予感的に」
「怒ってるのは私の方だと思うぞ、アコ」
それもそーでした。
ただこの状況だとそれもウヤムヤになりそーで、わたしとしてはそれはそれで嬉し
「アコっ!」
「きゃあっ?!」
突然でした。
ベルの腕がわたしに巻き付けられたと思うと同時に、ベルはわたしごと木枠の窓から外に身を乗り出し、昼の街に身を投じたのです。やっぱりわたしを、抱えたまま。
…もしかしてわたし、さらわれた?
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