第20話 砂漠のポテトチップス

 砂塵舞う九月のザヴァラにてヴィルヘルムは水を求めた。ここ数日間、満足するほど水を飲むことはなかった。地球の七割が砂漠になったと言われている現在、高価な水をたらふく飲むことがどんなに困難であるか、どんなに不可能な願望であるか、生死の境をさまよいながら十分承知をしていたヴィルヘルムであったが、不満は幾つもあった。


 街角にある壊れかけのホテルしか宿泊する費用はなかった。崩れ落ちそうで、壁の向こうの音は筒抜けで聞こえてくる。それでも、砂が止まってくれるだけありがたい。砂埃の中でキャンプするのは精神的にも肉体的にも限界に近かったのだ。


 ヴィルヘルムは人間のたくましさについて考えていた。食料も水も地上から失われてから、十年は経っていた。それでも、人口は大幅に減ってるだろうが全滅するわけでもなく面々と命をつないでいる。


 どこから手に入れたのか分からない食料が、金があればそれなりに十分手に入れられる。それほど困らない程度には生活が出来るのだ。金持ちは。


 ヴィルヘルムは部屋の中央に置かれたテーブルの上にあるポテトチップスから目が逸らせなかった。物珍しい一品であることは解っている。


 手を伸ばそうとして引っ込める。そして、再び手を出しそうになる。お金が足りないわけではない。ポテトチップスはなぜかわからないが、相場より遥かに安い値段が書かれている。


 食べてしまえ。そんな心の声に負けそうになる。罠だということは解っている。こんなポテトチップスを満足に食べれば喉が渇くに違いない。


 ヴィルヘルムは、市場価格の十倍ほどもする水の値段が書かれたメニューシートを見て溜息を付いた。 勿論、水はテーブルの上には置かれていない。


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