第21話 契約

「魂を売り渡そうよ」


 ジャンが苦悶の表情を浮かべながら懇願してきた。けれども、そんな手に乗る訳にはいかない。


「アナタだけで契約したら?」

「何を言うんだマリアンヌ。二人で契約することに意味があるんじゃないか」

「契約しても何も変わらない。それならば、もう天国に行ったほうがマシだわ」


 マリアンヌが反論すると、ジャンは両手を伸ばしてきた。その突き出される槍のような二本の腕にマリアンヌは首を掴まれた。


「これでも、契約しないのか?」


 最後通牒とでも言いたげなジャンの言葉にマリアンヌは少しだけ吹き出す。


「何が面白いんだ!」

「全てが。面白いと言っても良いかもね。アナタの自分勝手な考え方、自堕落な生き方、我儘な人生観。全てが自己中心的で高慢でしか無い」

「馬鹿にするな。お前に最後のチャンスを与えようというのに」

「悪魔に魂を売って生き残ってどうするの? 人が生きる時間は死んでからの時間より短いのよ。魂を売れば永遠に苦しめられる。そんなこともわからないの?」


 マリアンヌが挑発的な言い方をすると、ジャンは顔を赤らめて怒りを見せる。


「黙れ、黙れ。お前みたいな薄情な人間は始めてだ」


 マリアンヌはニヤリと笑うと、懐から銀のナイフを取り出してジャンの胸を突き刺す。蜂の一撃となるべく放たれたナイフに、抵抗することもなくジャンが刺されるが、倒れることはない。突っ立ったままにやりと笑う。


「ジャン、やはり、アナタは悪魔だったんですね。でも、もう今更どうすることも出来ないでしょう。何故ならば、アナタはもう契約を破っているのだから。」


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