第18話 肥料

 着陸艇から眺める火星の大地は赤かった。もう、二度とこの景色を見ることは出来ないのだろう。そう考えると憂鬱な気分になる。それでも、これからの未来には希望がある。月のダウンタウンで芋虫として生きているより、大地を耕すことが出来るだけ十分マシだ。


 地表に降りてみると、空気の薄さが気になった。月面育ちの俺ですら呼吸が苦しいとなると、地球出身の人間はまともに動くことなどできまい。そう考えながら、周囲を見てみるとヘルメットをかぶった人間がいる。ああ、地球出身のエリートたちには関係ないのか。


 屠殺場に送られる豚のように集められた俺たち入植者は、良くわからない書類にサインさせられる。真っ当に字も読めないのに、英語で書かれているなんて嫌がらせなのか? 今更文句を言ったとしても始まらない。俺たちは、ここで地面を耕し必死になって生きなければならない。


 役人から支持を受けるために到着を待って立っていると、銃声がした。テロリストか何かが、俺達に向かって発泡しきたのだ。


 それなのに、役人も警備員もいない。気がついたら、俺たち入植者がいるだけだ。何も持っていない俺たちは、発砲を避けることすら出来ない。逃げる人たちも狙いすましたかのように射殺されていく。


 意味がわからない。どうして、こんな火星まで着て、こんな目に合わなければいけないのか? 大声で文句を言う相手すらいない。何もしないで殺されてなるものか。俺は見えない狙撃手に一撃でも与えるべく走り出す。無意味なことと知りながら、もしかしてこの大地にかえるのだろうかと考えながら。


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