第17話 やかんとみかんとビキニの女性
バニーガールがいた。ビキニ姿の女性もいた。だが、誰も視線を合わせようとはしない。幾人かのカメラを持った人間が声をかけて写真を取っているが、多くのポーズを取る彼女らを無視して足早に去っていく。
多分、SNSでこんなコスプレがいた。とアップするためのものだろう。どんなコメントが着くかは想像できるだけに、少しだけ憂鬱な気持ちになった。
格差社会と言えば格差社会。それはコスプレ会場でも間違いない。いや、それこそランクとかカーストとかヒエラルキーとかそんな感じで明確になるのがこの場所なんだろう。
俺は呆れながらこたつに入っていた。眼の前に置かれたやかんとみかん。
このアイテムには、非常に深い意味がある。本当はストーブを持ち込みたかったところだが、流石に火気厳禁とか火気使用許可がいるとか考えると現実的ではなかった。なので、こたつの上に置かれているこの状況だけで満足するしか無かった。
コスプレとは孤独だ。トップのコスプレイヤーであれば、別かもしれないが俺なんぞ誰も相手にしようとはしない。退屈を凌ぐために眼の前にあるみかんを食べようとしてもそれも叶わない。
バニーガールを撮っていた奴らが俺のもとにも来る。でも、表情を見るに、興味があるわけではない。ネタの一つ。十把一絡げの一つだ。
まっ、これをやると決めたときに覚悟していたことだ。誰も俺のことなど理解出来ないし、理解しようともしない。ストーカーじみた美女が現れて執着することなどありえない。それでも、俺はここに来たかった。この場所に自分が存在するという一つのアートを楽しみたかった。
耐えきれなくなって、みかんに両手を伸ばした時、雷ビキニの綺麗な女の人が俺のことを指差す。
「あっ、こたつねこ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます