第14話 今夜はサンマ
冷凍サンマが、海のルビーと呼ばれるようになってからどれほどの月日が経ったのだろうか。庶民に派手が出せない三大珍味とまで言われている幻の魚。いつかは食べてみたい。そう思っていたある日、その機会がやってきた。
「吉澤先生。サンマが食べられるって本当ですか?」
「長嶺君、私を疑うのかね」
「いえ、先生を疑うなど恐れ多いこと」
私が土下座をしそうな勢いを見て、吉澤先生に静止させられる。
「安心したまえ、ちょっとした冗談じゃよ。だがな、実は儂もちょっとばかし疑ってはおるんだ。漁業組合の刻印があるとは言え、あのサンマだ。偽造じゃないか、とな」
「わかります先生。そのお気持ち」
「だがな、もしサンマではないとわかったとしてもサンマとして食べようではないか。どうせ、儂らはサンマを食べたことがないのだから、味なんぞわからんのじゃよ」
「そうおっしゃられますと、その通りでございますね」
私は、サンマを食べられる興奮で、先生に失礼がないように十分な注意をはらいながら返答をする。
「それにしても、魚自体が久しぶりだから少し緊張するな」
「先生でもですか?」
「長嶺君、君は儂のことを買いかぶりすぎじゃよ。ありがたいことだがな」
「そんな、滅相もない」
頭を下げると、肩をポンポンと叩かれる。
「実は、サンマを養殖するプロジェクトが本格的に始動する予定なのじゃよ。水族館とかで飼育していたのを規模を大きくしてな」
「なるほどなるほど、それで、今回、食にありつけるわけですな」
サンマがどうして絶滅寸前になったのかはわからない。海とは狭いものだから仕方がなかったのだろうか。
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