第10話 カソニック

 カソニックは、老人たちのための器具だった。老人たちのリーダーが、門番球ゲーティングボールというスポーツで、各選手への指示を行うために開発されたものだった。


 これは、若者には使用できない。何故ならば、若者たちにとって不快になる音が聞こえるようになっているからだ。老人たちには普通に聞こえる会話の内容も、若者たちにとっては騒音にしか聞こえなくなる。そんな仕組みがカソニックには組み込まれていた。


 原理はそれほど難しくはない。若者と老人は可聴域が異なる。若者は耳が劣化した老人らには聞くことが出来ない高音を聞くことが出来るのだ。その高音をノイズ《騒音》として発することにより、若者が聞くことを耐えきれなくさせ、老人たちのみ不快感になること無く聞くことが出来るようになる。


 だから、カソニックは若者使用不可というより、若者たちは使用できない。と説明するのが正確ではある。


 リーダーはそのことを利用するつもりだった。カソニックが使える老人たちに優位性がある。老人たちは優れた存在なのである。と、示そうとしたのだ。


 単純な思惑ではあったが、効果的ではあった。若者たちは、見知らぬ機器を使用するのは自分たちの特権と思っていたかもしれないが、その特権が逆転したのだ。興味なさそうな様相を見せても、気にならざるを得なかった。年寄りたちが嬉しそうに使用する機器を横目で見ながら、ぶどうが酸っぱいと罵る狐のような態度をとっていた。


 リーダーは門番球というゲームを利用して老人たちをコントロールした。単なるレクリエーションの集まりを自分の私利私欲のために使用しようとしたのだ。


 だから、そんな災が起こったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る