第8話  うなぎの馬鹿焼き

 うなぎの馬鹿焼きを作った。蒲焼きではない。馬鹿焼きだ。これは、昨今のうなぎの過剰採取を批判するものでもあり、単なるネタでもある。


 うなぎの馬鹿焼きは、うなぎではない。勿論、秋刀魚の蒲焼でもない。実際は穴子だ。食べてみれば食感で分かるはず。味なんてぜんぜん違うじゃないか。個人的にはそう思うんだけど、お店で出してみればあら不思議。


「やっぱり土用の日はうなぎね」とか、

「あーやっぱうなぎは上手いな」とか、

「食べたら夏バテが解消された」とか、


 みんな好き放題なことを言っている。けど残念。貴方が食べたのはうなぎではない。普通の穴子だ。


 溜息を吐きながら次の仕込みを作っていると、店の扉が勢い良く開かれた。和服を着た態度のでかそうな人間が店の中に入ってくる。


あるじ、うなぎあるか?」

「うなぎの馬鹿焼きならありますけど……」


 嘘は言ってない。ちゃんとメニューにはうなぎの馬鹿焼きは穴子です。って但し書きが、生命保険より見やすい文字で書かれている。それを見落とすならば、不注意ってもんで、注文する方の責任だ。


 事実、時折、これは穴子なの? って訊いてくる人はいる。そんな人には、ちゃんと穴子です。と回答している。


 不思議と、この回答をしても怒られることはない。むしろ、面白がって食べてくれる人も多い。穴子なら甘ダレだけど、この馬鹿焼きは垂れがちゃんと用意されていない。とか説教してくる人もいたりもする。


 そりゃあ、時折は文句を言ってくる人もいる。でもそいつらは、気づかなかったフリをして、騙されたと大騒ぎをして、金を払おうとしないだけだ。


 今回入ってきた客もそんなタイプのように見えた。だから、油断はできない。注意をはらいながら料理を提供すると、「流石はうなぎ。これが本物だ」とか言っている。やはり、見た目に騙されてはいけないな。偉そうなやつに限ってわかっていない。それが心理かもしれないなどと考えていた。

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