5話 妹との仲直り~戻ってこれたような気がする~
あの後俺たちはミジパを食べ終え帰路についた。
行くときと同じように電車に乗って帰る。
「明日からまた学校か~面倒くさいな」
「はあ。まだ入学して一週間しかたってないでしょ。こんな短い期間でそんなこと言ってたらこの先どうすんのよ」
「それもそうだな!でさ…」
できる限り佑厘佳に話しかける。そうしないと無意識のうちにさっきの彼女のことを考えてしまうからだ。
そうしているうちに最寄り駅に到着した。オルゴールを忘れないようにしっかり手に持って電車降りる。
少し日が沈み始めてきた。時計は午後4時頃を指していた。
約10分歩き、家の前についた。この一週間は駅から歩いて帰っていたのでそこまで苦ではなかった。
「それじゃあまた明日な」
俺が佑厘佳を家まで送って帰ろうすると、後ろから佑厘佳に呼び止められた。
「ちょっと待ってて!」
そう言うと家に飛んで入っていった。
少し待ってるとガチャリと扉が開いて、大きな紙袋を持った佑厘佳がでできた。
「これ、優奈ちゃんにあげて。私のおさがりだけど、いらなかったら捨ててくれていいから」
「おお、ありがとな。優奈もきっと喜ぶよ」
「あと底のほうにちょっとしたもの入れておいたから。それでも使って兄弟の中でも深めなさい」
俺は驚きと同時に『なぜそこまでしてくれるのだろう』と思った。しかしここでそんなことを聞くのは、野暮というものだろう。その言葉を押し殺す。
佑厘佳背を向け、家に帰った。それと同時に右手を挙げて感謝を伝えた。
カードキーを扉にかざして家の中に入る。
「ただいまー」
返事はない。ただの屍のようだ。
こんなのはいつものことで普段なら気にせずに過ごすにだが、今日はそういうわけにもいかない。
右手にたくさんの服の入った袋を持って、階段を上がり優奈の部屋の前に行く。
深く息を吸い込んで吐き出す。意を決して扉をノックする。
「優奈。入っていいか?」
当然返事はない。
もう一度優奈の部屋の扉をノックする。
普通にやっても開けてくれないのはさっきので分かってる。
「優奈!開けてくれ!ゾンビが出たんだ!助けてくれ!」
やっぱり無理か。ゾンビくらい倒せると思われてる。
しかたない、あれを使うしかないか。今日はここで諦められない。今日こそは謝るんだ。
袋を部屋の前に置いて自室に行く。
自室の部屋にある棚の一番上。鍵のかかった段だ。ここに入れているのはなくしたりしたら、一大事になってしまうからだ。
本棚の一番下にあるフェイクブックから鍵を取り出し、棚の鍵を開錠して取り出す。
取り出したものは『ピッキングツール』だ。
ピッキングツールを持って部屋を出る。
もう一度優奈の部屋の扉をノックする。
「優奈。今日は絶対にあきらめられないんだ。実力行使はしたくない。はやく開けてくれ」
返事はやっぱりなかった。
はあ、やっぱりピッキングで無理やりこじ開けるしかないか…。
このピッキングツールを手に入れたのは俺がちょうど9歳の誕生日を迎えた日に父さんに誕生日プレゼントで貰った。あの時は毎日のように『ピッキングしたい!ピッキングしたい!』って言っていた気がする。ちなみになぜそこまでピッキングにご執心だったのかはよく覚えていない。何かのドラマの影響だった気がするが、それ以上は覚えていない。それで俺は貰った日に父さんにピッキングのイロハを教えらてた。
貰った日から欠かすことなく、毎日練習していた。あの頃は30秒あれば家の鍵なら開けられたが、8年くらい触ってないから、そんなに早くできる以前に開けられる自信がない。けどやってみるしかない。
ピッキング道具を広げ、先が細くなっているくの字型のテンションと熊手型のフックを取り出し、鍵穴につっこむ。少しずつ慎重に一つずつ合わせていく。
1つ、2つ、3つと合わせていく。
そして最後のバネを合わせる。
ガチャという音が鳴る。それとほぼ同時にドアノブを下げて、部屋に入っていく。
「優奈!すまなかった!」
おでこをフローリングにつけて土下座をした。
お前にプライドはないのか?って妹《ゆうな》と仲直りできるのならばそんなものはいらない。
少し頭の上げて優奈を見ると、先ほどまでパソコンを触っていたのだろう。椅子を90度反転させたゲーミングチェアに座ってこちらを見ている。その表情はハトが豆鉄砲を食らったかのように驚いていた。
そこからまた少し時間が経ち、椅子から立ち上がって俺の前に立つ。そして俺が部屋に入って初めて口を開いた。
「とりあえず頭を上げて。兄さん」
「はい…」
頭を上げるがなかなか優奈の顔は見れず、フローリングを見てしまう。さっきは簡単に見れたのにな…。
「兄さん。私の顔を見て」
俺が顔を上げるのに合わせて優奈もしゃがむ。目の前には優奈の顔がある。優奈の目を合わせようとするが、合わせあぐねてしまう。
「ねえ、目を見て。・・・なんで兄さんが謝ってるの?」
「なんでって、俺がいたせいで、その、いじめられたから・・・」
「それは違う。兄さんのせいなんかじゃ絶対にない」
俺は意を決し優奈の目を真正面から見る。そこにはその場を取り繕うために吐いた嘘や俺を気付つけないために言った言葉ではない純粋で何にも囚われていない心からの言葉だと俺は感じた。そんな言葉に俺は言い返せる言葉も気持ちもなかった。
「そんな目で見るなよ。ずっと気に病んでいた俺が馬鹿みたいじゃねえか」
その言葉と同時に俺の目から涙が流れた。どんどんと頬を伝い、フローリングに落ちていく。
「に、兄さん。なんでないてるの」
そう言いながらティッシュを渡してくる。
「わかんないんだけど、なんでか涙が止まらないんだよ」
優奈のイジメが発覚する前に一度俺は、優奈にこう言ったことがあった。
「学校であまり俺に引っ付いたらめんどくさいことになるぞ」
その時の優奈は輝くような笑顔で俺にこういい返した。
「大丈夫だよ!私のお友だちにそんなことをするような子はいないし、もしそんなことが起きても兄さんが助けてくれるでしょ!」
その返事に微笑して、こう返した。
「そうだな。なんかあったら俺に言えよ。絶対に助けてやるからな」
この時のことをたまに思い出す。その度に俺はあの時の返事はあまりにも無責任だと思う。
そして、その二か月後の11月のことだ。優奈のいじめが発覚した。
俺は悔しくて、悔しくてたまらなかった。なんであの時に気づいてやれなかったのだと、すごく後悔した。
たったの16年の人生だが、あれほど自分を恨んだことはない。助けるといったくせに助けてやれなかった。とても、とても辛かった。
1日だけ学校を休んだ。先生も理由は聞かないでいてくれた。
その日は、隣に優奈がいるにも関わらず、泣いた。
目は赤く腫れあがったが、一晩寝ている間にはれは引いていた。
学校に着き、教室に入ると教室の空気はどんよりとしていた。
「ういーす!」
とにかく元気に振舞おう。今はそれしかない。
そう思って、いつもの通りの日々を過ごす。すると、教室の空気は良くなっていった。いつものように明るい教室へとなっていった。
それから、期末テスト、学年末テスト、受験、卒業式となった。
その間、誰一人として優奈の名前を口に出すものはいなかった。
けれども、俺は一瞬たりとも忘れることはなかった。
そして、いまこの瞬間、あの日から今日のこの日まで俺が背負っていた罪がすべて許された。その時、俺の眼から涙があふれ落ちていた。
「ふふふっ。兄さん。あの時みたい」
「あの時って?」
「私がいじめられてたのが分かった次の日」
「俺が泣いてたこと知ってたのか!?」
「もちろん」
顔がだんだん熱くなって、茹でられた蛸のようになっているのが自分でもわかる。
それを面白がって優奈はどんどんと当時のことを話しまくる。
「もう言わないでくれ!恥ずかしくて死んじまいそうだ」
「あははははは!!」
俺は戻ってこれたような気がする。
幼なじみで腐ってます。 アンドレイ田中 @akiyaine
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