4話 彼らはデートをするその2【とっても怖いんだけど】

元気よく歩き出したのはいいが周りの人が多すぎてとても歩きにくい。その周りの人は観光客ばかりだ。

「すごい人多いわね」

「そうだな。まぁ気楽に行こうや」

人の熱気のせいか、それとも地球温暖化のせいか、俺の体温は上がっていきメガネがどんどん曇っていく。

こんなの、、、、初め、、て、、だよ、、、

「初めてじゃないでしょ。結構前にラーメン食べに行った時にそうなってたでしょう」

「あー。そんな日もあったな。またあそこのラーメン食いに行こーぜ」

「もちろんよ」

人混みの中を歩いているとお腹が空いてくる。まぁ、小腹だからそんな死んじまう〜ってやつじゃないから大丈夫だけど。

「ねぇ、薫。ちょっとお腹すかない?」

「あぁまぁ、ちょっと…」

「お団子食べましょ」

「え、あ、了解ッ!」

佑厘佳が俺を先導して連れて行ったのは渡月橋のすぐにあった店だ。

「はい。らっしゃいどれにあすか?」

「えっとー私はラムネあんで。薫あんたはどうする?」

「なら、俺はメロンソーダあんを1つ目お願いします」

「はいよ。2本合わせて400円になりまーす」

財布からワンコイン。金ピカに輝く五百円玉を取り出しトレーに置く。

「お、カノジョさんに奢るニーチャンカッコイイー。はい100円のお返しとレシート、お団子になります。あーさっしたー」

100円とレシートを財布に入れて団子を受け取る。おー鮮やかな黄緑と水色やー。

「ありがと。奢ってくれて」

「いや、女の子に払わすのは悪いし」

串に刺さっている団子を食べる。おー凄いクリームソーダの味がする。

「んー美味しぃ!あ、薫の1口ちょーだい」

佑厘佳は俺が返事をする前に2個目にかぶりついて口の中に盗んでいった。

「なら俺ももーらい」

俺も佑厘佳と同じように団子を奪った。佑厘佳の団子はスイカの甘い味がしっかりとした。

信号が赤から青に変わり歩き出す。信号を超えた先にあったものは『渡月橋』だ。

「そういえば去年の西日本豪雨凄かったな」

「急にどうしたの?」

「いや、渡月橋見たらさ思い出して」

「あー渡月橋浸水したんでしよ」

「そうそう。けど、直って良かった」

「そうだね」

そんな渡月橋は今やたくさんの車や人が渡り、橋の下を流れる桂川には子どもたちが水遊びを楽しんでいる。

橋を渡りきり横断歩道を渡り少し歩くと上に続いている階段があった。その隣には看板か立てられておりそこには『嵐山モンキーパーク』と分かりやすく大きく書かれていた。

「階段、急そうだな」

「そうね」

階段は急だったがそこまで段数はなくすぐに終わった。

「案外呆気なかったな」

「そうね」

階段を登りきると左隣に小さな小屋とゲートが設置されていた。

小さな小屋でにモンキーパークに入場するためのチケットを販売していた。

お金を払い猿の写真が印刷された紙切れをもらい入園した。

そこから俺たちは階段と坂を登った。

両方とも山に面して作られているため急な斜面になっていて俺はともかく、佑厘佳はかなりしんどそうだった。

「佑厘佳、大丈夫か?」

「ええ、大丈夫よ」

登り始めて10分か15分してようやくの思いで頂上にたどり着くことが出来た。

頂上付近には猿山と言うだけあって猿が山から沢山降りてきて普段では動物園ではこんなに近くで見ることが出来ないからとても面白かった。特に猿が毛ずくろいをしているを見るのは俺も佑厘佳も初めてで写真をたくさん収めることが出来た。

「ふぅ。やっと着いたー」

階段を登りきった佑厘佳はかなりヘトヘトでまだ遊ぶのに大丈夫かと心配似るくらいだ。

けれども、振り返って前を見るとすぐに元気を取り戻した。

「うわぁー!すごーい!」

「ホントだ。ここまで登ってきて良かった」

山から見た景色はそれこそ『絶景』と呼ぶのに相応しい眺めだ。

たくさんの古風ある家々と近代的なビルが立ち並んだ場所。その間の境界を作るかのように流れている鴨川。この景色ためならあれほどの労力は四捨五入できるほど少ない。

「あ、写真撮ろ!写真!」

「おう」

佑厘佳はスマホの加工できるカメラのアプリを起動して内カメにし、左手を斜め上に掲げた。俺は佑厘佳の右側に立ってポーズを決めて写真を撮った。

「後でおくってくれよ」

「わかってるわよ」

佑厘佳はスマホをひょいひょいとスワイプして俺のスマホへと先程の自撮りの写真を転送した。

「よし。あの小屋に行きましょ。あそこで猿に餌やりできるの!」

佑厘佳に手を引っ張られて小屋に向かった。小屋の前には猿が中に入らないようにするためのドアマンのおじさんが椅子に座ってた。

俺たちが小屋に入ろうとする楽しんでね〜と言って扉を開けてもらった。

中では売店があり、そこでは『リンゴ』と『落花生』の2種類の猿の餌が売られていて俺たちは一種類ずつ買って猿たちが沢山群がっている所で餌をやろうとした。

「ね、ねぇ薫」

「ん、どうした?」

「猿がとっても怖いんだけど…」

佑厘佳は涙目になりながら俺の服の袖を掴んで言ってきた。

「大丈夫、大丈夫。餌を摘んで猿に渡す感じで近くに持っていけば猿が勝手に取ってくれる。ほら」

俺は落花生を袋から1つ、つまみ出して猿に近づけた。すると、俺の手からぶん取るように奪い去って行った。ちょっと怖かった。

佑厘佳の方に顔を向けた。

「ほ、ほらな言った通りだろ」

「そのとおりね。わかったわ。私も頑張ってみる!」

佑厘佳は握りこぶしを作って気合いを入れて袋からリンゴを一欠片取り出して猿の近くに持っていった。

小さな猿が恐る恐る手を伸ばしてリンゴを掴んで食べ始めた。

「やった!できたわ薫!」

満面の笑みを浮かべながら俺の方を向いてきた。いい笑顔。

そこから買った餌を猿に与えて食べている子猿の写真を撮ったり餌の取り合いで喧嘩をする猿に驚いたりとモンキーパークを全力で楽しんだ。

「そろそろ降りるか」

右手に付けていた時計を見て佑厘佳に言った。

「そうね。私お腹が減ったわ」

「じゃあ昼飯にするか?」

「うん!」

出口ゲートから山を降り始めると男性の大きな声が聞こえてきた。

「緑色の猿や!まてー!」

え、緑色の猿?俺たちの頭にはハテナによって埋め尽くされ、顔をお互いに見合わせた。

「緑色の猿ってさ」

「うん。言いたいことは分かる。大いにわかるよ」

「だよなぁ」

「「色違いのポケ○ンかよ!」」

階段を逆走しようとすると上から小さい男の子が元気いっぱいに降りてきた。

あぁ。そういう事ね。

お互い納得したという顔をしてまた山を下って行った。

上りよりかは楽だったがそれでも大変だった階段を降り切ると登る時とはまた違う景色を見ることが出来た。

「ね、ねぇ薫。ちょっと休憩しましょ。はしゃぎすぎて疲れちゃったわ。あ、あのお店行きましょ!」

俺の合意を得る前に腕を引っ張ってオシャレなお店に入っていった。

店内はオルゴール一色だった。オルゴールの曲はアイドルなどの歌っている曲が多かったが幾つかボカロもあった。

その中には俺の妹の大好きな曲もあった。

「この曲、優奈の好きな曲なんだよ」

俺はそのオルゴールを手に取りゼンマイを回して鳴らしてみた。そのオルゴールはポロンポロンと澄んだ音を鳴らした。

「そのオルゴール、買ってあげたら?優奈ちゃん喜ぶと思うよ」

「そうかもしれないな。うん。買おう!」

俺ははオルゴールを買った。

これで仲直り出来ればいいけど…。

俺の知る限りではただの1度も俺は自分の部屋から出てきたのを見たことがない。オルゴールで出てきてくれるだろうか。

オルゴールを買い店を出て飯屋を求めながら来た道を戻りながらも観光地らしいお土産物屋を覗いたりしていた。

「けど、なんで私とデートしてるのに他の女の子のとこ考えるかな〜」

「そりゃごめんって!」

店を出てから何度もこのことを言ってくる。

「それで飯、何処にする?」

「あ、話ずらした!」

「はぁ、そんなにしつこいってことは何か奢って欲しいものでもあんのか?」

「そんなのないよ」

佑厘佳は凛とした顔になり、目は温もりのある悲しげなそんなふうになっていた。

「ただ、1つお願いがあるのよ」

「なんだよ」

「優奈ちゃんと仲直りしてね。これは約束だから」

そう言って華奢な小指を伸ばして俺の方に向けた。それに応えるように小指を伸ばして結んで指切りをした。

「指切りげんまん。嘘ついたら、地下労働行きけーえってい!指切った!」

「地下労働ってカ○ジか!」

「んふふ!約束だからね。あ、あのお店にしましょ!」

佑厘佳が指を指した先には見ただけでは知る人ぞ知る名店のような見た目をした店だ。

まぁ、こんな観光地の大通りに面している店なのだから知る人ぞ知るもなんてことはないが。

のれんを潜りながらガラガラと、扉を開けた。いらっしゃいませと女性がこちらを向いて言う。それを聞いて他の店員もいらっしゃっせーと言われ先ほどの女性に席を案内された。昼時のピークはすでに過ぎており席はかなり空いてる。座るとお冷と一緒にメニュー一覧を渡された。

メニューを机の上に開いた。

「どれにする?」

「ん〜どれも美味そうだから決めらんね」

「だよね。この『鴨と九条ネギのうどん』にしようかな」

「おぉ、美味そう。じゃあ俺は『牛肉のうどん』で決定。店員さん呼ぶぞ」

「分かったわ」

「すいません」

厨房に向かって叫ぶと注文を取るためのPDTを片手に持って席にやってきた。

俺たち二人の注文を聞いてまた厨房佑厘佳に戻って行った。

しばらくするとお冷が運ばれてきてその後、湯気を立て、葱の香ばしい匂いと共に二つのうどんがやってきた。

定員さんが俺たちの前に置き、ごゆっくりお楽しみくださいと言い頭を下げて再び厨房へ戻って行った。

割り箸を2膳とって佑厘佳に渡して、両手を合わせて合掌をした。


「「いただきます」」



割り箸を縦方向に割りちゅるちゅると面をすすった。

佑厘佳は手で仰いで香りを楽しんだ後に麺をすすった。すると大きく目を見開き、ぱちぱちさせた。それから箸は止まることなく麺や具材を佑厘佳の口に運んだ。

それを見て俺も食べてみた。

箸で麺をすくって息を吹きかけて冷ましてすすった。

おお、これはおいしい。

牛肉がいい出汁を出している。

箸が止まらない。

2人は終始無言でうどんを食べ終えてその店を後にした。

「ふう。食った、食った」

「お値段の割にはおいしかったわ。で次どこに行くの」

「竹林に行くつもり」

「じゃあ迷子にならないようにしなきゃね」

「ここじゃ不死身の女の子も助けてくれないな」

俺たちは顔を見合わせて笑う。

2人はすぐ近くにあった曲がり角を曲がり道なりへと進んで行く。

その先には目視では数え切れるわけのない量の竹たちが生い茂っていた。

その竹林に入っていくとそこは幻想世界のようなものが広がっており、竹たちから発生しているのだろうか。ひんやりとしたマイナスイオンがムシムシとしている場所から来た俺たちに小さな幸福を与えてくれた。

「んんーっ。ひんやりしてて気持ちがいい」

「ほんとだな。ここに来てみて正解だな」

竹は空に向かって真っすぐに伸びている。土が良いのだろうが、それ以上にこの土地に住む昔からの人たちによって我が子のように大切に育てられてきたのだろう。俺はこの竹を見てそう感じさせられた。

先に進んで行くと中はやはり観光シーズンということもあり、たくさんの人達で賑わっている。その多くは色とりどりの浴衣を着ていた。

「佑厘佳。浴衣着たいか?」

「何よいきなり。別に着たくないわよ」

佑厘佳は海外ドラマでよく見る『はぁ?なんで』のような表情とポーズをして続けてこう言った。

「だって、動きづらいし着つけるの面倒くさそうじゃない?」

「まあそうだな」

「あ、もしかして私の浴衣姿見てみたかったの?」

佑厘佳がからかってくる。こういうところが少し鬱陶しい。

だけれども、嫌いじゃない。こういうのに対する古来からの便利な教えがある。

それはハンムラビ法典だ。まあ偉そうに言うものでもないがこれの中に書かれているものをうまく表したもので『目には目を。歯には歯を』この理論で行くと『からかいにはからかいを』ということでからかい返せばいい。

「そうだな。一回見てみたいなとってもかわいいお前の浴衣姿」

と、笑顔で返す。もうこの笑顔でチャーミングスマイル賞でもとれるんじゃないかも思うぐらいいい笑顔で返すことができたと思う。佑厘佳は先ほどまでこっちを見て五月蠅いくらいにからかってきていたのがウソのように静かになった。

そこから、くだらない話をしながら嵐山の竹林を隅から隅まで探索をした。

入ってきた場所に戻ってきた。竹林を出るとまたあの京都特有のしつこい暑さに襲われた。

「やっぱり熱いわね。竹林に戻らない?」

「そんなこと言ってたら竹林からずっと出れなくなるだろ」

「それもそうね行きましょう」

竹林を出て時計を見ると午後3時だった。

「かなり広かったから少しお腹が空いたわね」

「ちょうど3時だし何か甘いものでも食べるか?」

「そうね。それなら私、『mizinko』っていう店があるんだけどそこに行ってもいい?」

「ああ。全然いいよ」

竹林から出て数分歩くと少し長い列のできているお店の前に止まった。

「ちょっと並ぶんだけどいい?」

「全然大丈夫。ほれさっさ列に並べ。並べ」

列に並びながらメニュー表を見て佑厘佳はどれにするのか決め悩んでいる。佑厘佳が悩んでいるうちに順番が次に迫ってきた。

「佑厘佳、どれにするかきめたか?」

「うーん。どれもおいしそうで決められない」

「おい、次だぞ」

「分かってるわよ。あー決めた」

佑厘佳がちょうど決めた所で順番が回ってきた。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「えーっとこのミジパを1つください」

「お連れ様は?」

「彼と同じものをください」

「かしこまりました。ではあちらで少々お待ちください」

店員の指すほうに移動をしてお会計を済ませた。

「佑厘佳俺と同じのでよかったのか?」

佑厘佳は少し不服そうな顔をして言った。

「なによ。偶々選んだのが同じだっただけよ」

「はっはっは。そうか」

店員が2つのミジパを利両手に持ってこっちに来た。頼んだ商品を受け取り店を後にした。

「食える場所あるか?」

「ないわね」

「子の混みようなら仕方ねえな。立って食べるか?」

「そうね。そうしましょうか」

俺たちが話していると後ろから声をかけられた。

「あの、すいません」

振り向くとそこには優奈と同じくらいの背丈の女の子が2人立っていた。

この女の子どこかで見たことがあるような気がする。

「もしかして、薫先輩と佑厘佳先輩ですよね」

「そうだけど」

女の子たちははぁと安堵のため息を吐いて話を続けた。

「私、『中坂麻結』って言います。覚えてないですか?」

中坂麻結、、、。どこかで聞いたことがあるような気がする。

俺が悩んでいると佑厘佳がはっと思い出したように言った。

「あ、もしかして去年1年2組の室長だった子?」

1年2組ってことは優奈と同じクラスだった子だ。それに室長ってことは通りで見たことがあるわけだ。中学の頃1か月に1度『室長・生徒会役員会議』が行われており俺と佑厘佳もそこに参加していた。だから聞いたことがあったのか。

「そうです!で、私去年に続いて優奈ちゃんと同じクラスになったんですよ。それでクラス全員でちゃんとそろいたいなってみんなで話してたんです。だから優奈ちゃんも元気になったら学校に来てほしいって伝えておいてほしいんです」

できる限りまろやかな笑みを浮かべて、相手の目線に合わせて返す。

「分かったよ。優奈に伝えておくよわざわざありがとうね」

「えいえい、それでは失礼します」

そう言って女の子たちは嵐山の町に出て行った。

「ねえ薫」

「どうした?」

「あの子のこと私、あまり好きじゃないわ」

「俺も同じ意見だ。なんだか芝居臭かった」

「そうよね。なんだか安物の香水みたいな匂いがしたわ」

彼女の言葉は俺たちの耳には届かなかった。そして俺はまだ何か引っかかっているような気がしてならなかった。もっと大事ななにかを。

そして買ったミジパに乗っているソフトクリームは少しずつだが解け始めていった











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