2話 彼らの入学式【俺たちの挨拶】
4月8日午前七時
「あー!痛い!痛い!」
「ギブ!ギブ!」
久しぶりに家に帰ってきた自衛隊の父『彩島勇次郎』と、朝から模擬戦闘をしていた。
父は俺の高校の入学式に合わせて昨日、帰ってきたのだ。
今日は午前5時に父のラッパによって起こされた。
それから、ランニングを5km走った後に腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットを全部100回ずつさせられ、そこから今に至るまでずっと2階のトレーニングルームで模擬戦闘をしていた。
「早くご飯。食べなさい」
母が俺と父に声を張り上げて呼んだ。
俺たちのいた部屋は蒸し暑く、床は2人の汗で濡れていた。
「「はーい」」
2人で返事をした。
2人で階段をおりていった。
「今日も優奈いないのか...」
俺が呟いた。
優奈は俺の妹だ。
うちの妹は今年から中学三年生に進級をした。
けれども、1年生の頃に同級生と部活動の先輩に酷いイジメを受けて以来、学校には通っていないし、部屋からも殆ど出てこない。
理由は俺だ。
俺という兄貴のせいで部屋から出てこない。
恐らく、俺のことを心の底の底の底から憎んでいる。
「そう...ね...」
俺のせいで終始朝食は雰囲気が重たかった。
◆
俺は朝食を食べ終わると食器を流しに運び、1階の洗面所に向かった。
歯磨き粉を付けた歯ブラシて歯を磨きながらスマホを弄っていた。
まぁUwitterで色々見たり、ニュースアプリで今日と昨日の夜のニュースを見た。
口から泡を吐き出して、ゆすいだ。
顔をしっかり洗った。
そして、俺は自室へ向かった。
向かう途中、優奈の部屋の扉をノックした。
けれども、反応どころか物音一つしなかった。
「まだ、寝ているのか...」
消え入りそうな声で呟いた。
また、いつか部屋を出てきてくれるのだろうか。
もし、そんな日があるのならば...。
そんな希望を高校生活への期待に混ぜ込んでおいた。
ハンガーに掛けておいた真新しい制服のジャケットに袖を通して、数少ない学校に持っていくものを詰め込んだ鞄を手に持って部屋を出た。
階段をおりていくと、そこにはスーツを着た父と母が待っていた。
「忘れ物はないか?」
「ちゃんとハンカチとティッシュとあれ持ってる?」
2人が問いかけてきた。全く何歳だと思っているのやら...。
「大丈夫!ちゃんとハンカチは右ポケットに入ってるし、ティッシュは左ポケットにある。あれは内ポケットに...」
「あ、部屋に忘れた」
大慌てで階段を駆け上がって部屋の扉を開いた。
昨日、丸一日かけて考えながら書いたのに忘れてしまったら元も子もない。
俺の部屋の机の上に置いていた、白色の封筒の中に文章が書かれている紙が入っているかを確認をした。しっかり中に存在していた。
その文章が何かと言うと、今年の入試で主席で入学した人が読む『新入生代表の挨拶』に選ばれているのだか、今年はトップが俺ともう一人いるから2人が読むことになっている。
こんなことは初めてなんだそうだ。
それと、充電をしていたスマートフォンも忘れていたのでポケットに閉まっておいた。
再び階段を降りて、父と母と順番に家を出た。鍵も閉めておいたから優奈が襲われる心配もなし。
外に出るとうちの家の隣には、黒のリムジンと黒のスーツを着てサングラスをかけているガタイのいい男が6人が3人ずつに別れて左右に休めの体制で立っていた。
その光景を見て言葉を失っているとその家の扉が開いた。そこから出てきたのは俺の知る女『新羅佑厘佳』とその父が現れた。
『新羅寿三郎』佑厘佳の父の名前だ。
彼は『新羅コンポレーション』の1代目の代表取締役社長なのだ。その会社は今では名前を聞かない日は無いくらいCMもしていて、殆どの人が知っている会社だ。
「今から入学式ですか?彩島さん」
「そんなんです。新羅さんもそんなんですか?」
「はい。そんなんです。佑厘佳は『私立京都丑三時高校』に首席》したのですよ、いやー鼻が高くなって海王星まで届きそうな勢いですよ!ハッハッハ」
ん?主席?いや待って10秒待って。
「えー!」
10、、、9、、、8、、、7、、、6、、、5、、、4、、、3、、、2、、、1、、、
OK。大丈夫。
10秒間で俺は脳内を整理した。その結果驚きのあまり声が出てしまった。
父親二人と佑厘佳が俺の方を見た。
「お、お前がもう一人の首席かよ!」
「お前がって言うことは薫がもう一人の首席なのね」
飼い主に抱きついてくる子犬のように満面の笑みを顔に作って俺のところに来た。
「そうだ!薫!うちのリムジンに乗って行かない?」
人生で聞くことがない言葉(俺調べ)の第3位の『リムジンに乗って』を凄いナチュラルに言われてしまった。
ちなみに、2位は『髪に芋けんぴ付いてるぞ』
1位は『その一言で法隆寺立てられちゃう』
だ。
この間、佑厘佳は寿三郎や母親に交渉をしていたが、許可を貰ったらしく行き帰りを送って貰えることになった。
リムジンの中はとてもゴージャスでテレビやジュースなどがあり至れり尽くせりだった。
席は母、裕次郎、俺、佑厘佳、寿三郎、佑厘佳母、の順番で座った。
俺と佑厘佳は挨拶の打ち合わせや、部活をするかとかの話をしていた。
学校までの約40分間がすぐに感じた。
学校近くまで来るとやはり入学式だからであろう。たくさんの人が歩いていた。
やっとの思いで校門前まで着くと、たくさんの視線がこの車に集まっていた。
車のドライバーが扉を開けると、新羅家から出ていき俺と佑厘佳は2人で学校へ歩いていった。
「2人ともしっかり頑張ってこいよー!」
という、父の声が後ろから聞こえてきた。
そんなことに気づいていないふりをしてクラス分けが張り出されている所まで行った。
◆
結果だけ言うと俺と佑厘佳は同じクラスになった。
「お前と同じクラスか...」
「何よ、その残念そうな顔は!」
まぁ、こんな可愛い女子と同じクラスになれた人はだいたい「うひょー!こんな可愛い子と同じくクラスとか神様ありがとー!」って言いながら、校庭を50周走るくらいのテンションになるだろう。
けど、俺は違う。こいつとは小学校どころか幼稚園のクラスの組み分けから12年間、同じクラスにしかなったことがないのだ。
「まっクラスに知り合いがいるのは心強いか」
「そーよ!ほんとに...」
俺たちは言葉を交わしながら拳どうしで、グータッチをして教室に向かった。
◆
教室には既にクラスの約3分の2、要は20人が来ていた。
クラスの人達は新しく出来た友人たちと楽しそうに話していた。
俺たちふたりが教室に入ると、先ほど以上のざわめきが起きた。しかも、俺たちの方をに指をさしながら。
親に『人には指を指してはいけません』って習わなかったのか?もしくは、幼稚園で。
教室の前方に設置されている黒板には1枚の白のコピー用紙がマグネットによって止められていた。
その紙にはクラスの席順が書かれていた。
そこにも衝撃的な事がプリントされていた。
それによれば、俺と佑厘佳は隣同士の席らしい。
「なぁ、佑厘佳。今俺が何考えてるか分かるか?」
「えぇ、もちろん。というか、同じことを考えていると思う」
教室の
俺たちは指定された自分たちの席に着席をしながら、話をしていた。
「「これ、絶対に仕組まれてるだろ」」
俺たちは同時に言った。
出身の中学校が一緒なのは仕方の無いことだ。クラスが一緒なのも仕方が無い。
なぜなら、俺たちのいるのは少数で難関国公立大学を目指す特別進学コース通称『特進』だ。だから、クラスは30人1クラスで俺達が一緒のクラスなのは仕方の無いことなのだ。
席が近くなのはしょうがない。
名簿順であるから、どうしようもない。
俺たちは妥協をして話し始めた。クラスメイトから視線を集めながら。
俺たちが話し始めてから約5分間。
クラス全員が揃った頃合だ。
その時に一人の女性は教室に入ってきた。
その女性は顔立ちはとても整っている、ロングヘアの女性。身長は見たところ160cmくらいの、胸はDかEか...大きめだ。
これだけだとあるラノベの先生を思い出す。
「みんなこんにちは。私は『
声はハキハキしていてとても聞き取りやすい声だ。
「おっ、時間だ。みんな廊下に並んでくれ」
全員が席から起立して前方と後方に設置してあるドアから出た。
◆
体育館は中学校とは比にもならないくらい広い。
その体育館の床は緑のマットを敷かれていて汚れないようにしてあった。
パイプ椅子が前方に、真ん中には2,3年の先輩が座っていた。後方には保護者のために付けられた長椅子が設置してあった。
長椅子はもう満席状態で立っている人もいた。
入学式は視界の先生によってどんどんと何も問題なく進められていった。
「学校長式陣」
「学校長須藤キャサリンが務めます」
学校長の名前を聞いた瞬間、殆どの生徒、先輩も含めてだ。その上、保護者も含め全員が笑った。
いきなり入学式でキャサリンなんて言われたら失礼だが不覚にも笑っていまうしかないじゃないか。
「新入生代表、挨拶」
「新入生代表、彩島薫。新羅佑厘佳」
「「はい」」
しっかりと返事をしパイプ椅子から立った。
2人で歩幅を合わせ来賓の方、学校の先生に一礼をして壇上に上がった。
先に佑厘佳が話した。
まぁ、金持ちの挨拶というようなものだった。俺には絶対にできないものだった。
佑厘佳の礼に合わせて俺もした。
そして、俺が話し始めた。
「御紹介に預かりました。入学生代表の彩島薫です。今日のようなことよき日にこの学校に入学出来たことを大変嬉しく思います。
さて、私はこの高校での生活は勉強だけでなく、社会の仕組みを学ぶ3年間にしていきたいと思っています。高校を卒業すると、大学へ行きその後は就職と社会に出てから社会を学ぶのでなく、高校生のうちに社会を学びたいと思っております。
今後、3年間という長いような短いようなそのような不思議な時間ではありますが先生方には沢山の迷惑をかけると思いますが、暖かく見守り、時には厳しく叱って頂けたら幸いです。これから3年間よろしくお願いします」
一歩下がって一礼をすると大きな拍手をもらった。
これは俺と佑厘佳の二人への拍手だ。
そうだとしても、とても、嬉しい。
壇上から降りてまた、先生と来賓の方に一礼して席に戻った。
そこからもトントン拍子に進んでいき、担任の発表になったが案の定、さっき教室に来ていた伊奈平静香先生になった。
その後、何事もなく伊奈平先生の引率の元教室へ戻った。
高校への入学式はなんの問題もなく進んでいき終わった。
帰りも殆どが一言も発することなく教室に戻った。
教室に戻ると10分間の休憩が与えられた。
すると、俺と佑厘佳の周りには餌に群がるアリのように集まってきた。
「2人って付き合ってるの?」「首席ってすごいね!」「2人ってそういう関係なの?朝も一緒に来てたし」
と、俺たちは10分間質問攻めにあってその後にLANEを交換してクラス全員が俺と友達になった。
ベルが鳴ると同時に担任が入ってきて全員に席に戻るように指示をする。それに従い全員が席に着く。
まだ、クラス委員長決まっていないので先生が号令をかけ授業が始まる。
「それでは改めて、このクラスの担任になった『伊奈平静香』だ。みんな1年間よろしく」
校則のことや新しい教科書、明日の連絡などを話されていき授業が終わった。
また、担任が号令をかけて授業を終了して今日の日程も終了となった。
俺はスマホを取り出して父に連絡をした。
それは佑厘佳も一緒で恐らく、迎えに来る執事に連絡をしているのだろう。
俺はLAINを起動して父のアカウントをタップした。さっきクラスの人と交換したおかげでアカウントを見つけにくくなっていた。
父にメッセージを打とうとすると佑厘佳が話しかけてきた。
「ねぇ薫」
「ん?なんだ?」
「うちの執事が『薫様も一緒にいらっしゃるのなら、一緒に乗っていかれますか?』だって。どうする?」
どうしようか?朝も乗せてもらったから、また乗るのは少し気が引けるなぁ。
「あ、今『朝も乗せてもらったから気が引ける』って考えたでしょ。いいわよ別に、そんなこと考えなくても」
え、何こいつ超能力者なの?完全に思考を読まれたんだけど。え、ちょー怖い。
まぁ、小さい頃からこいつはよく思考を読んできたから別に今になって驚くことはないんだけど。俺も分かるし...。こいつがそう言ってくれるなら...。
「ありがたく乗せてもらうよ」
「わかった。執事に伝えとく」
また、スマホを耳に当て電話をしだした。
俺は父に『佑厘佳の家の車に乗せてもらうから迎えにこなくていい』と伝えると『わかった。なら、また今度お礼に高級な紅茶持っていかなきゃな』と帰ってきた。
俺たちは互いに連絡が終わると教室に戻った。教室にはまだかなりの人数が残っておりみんな談笑をしていた。俺達も自分の席に着いて話し始めた。
すると、周りにも人が集まってきて約40分前の光景を再現したような形になっていた。
そして、あの質問攻めが始まった。
「2人は付き合ってるの?」
「「付き合ってない。ただの幼なじみ!」」
2人で言葉重ねて言い放った。どんだけ俺たちをカップルしたがるんだ。
けど、さっきの一言でわかってくれたようだ。
「朝一緒に来てたのは?やっぱり付き合ってるんじゃ...」
「「いいや、違う。家がお隣同士で偶然出発前にあっただけ!」」
前言撤回。やっぱりこいつらわかってねぇ!
どんだけカップルにしたいんだよ。
早くお迎え来てくれー!
こんな感じで約40分間。佑厘佳のスマホが鳴るまで質問攻めにあっていた。
電話がかかってきて佑厘佳が席を立つと俺に質問が降ってきた。
「幼なじみって特別な感情わかないの?例えば、恋とか愛とか····」
「わかないなぁ。だって気がついたらずっと隣にいた。まるで兄弟みたいな奴だから」
と、何故か周りは湧いていた。
電話を終えた佑厘佳が戻ってきた。
「薫。車来たから帰るよ。私のカバン持ってきて」
「あいよ。ってことでみんなまたな」
佑厘佳のカバンと自分のカバンを持って教室をあとにした。
◆
校門の前には朝乗ってきた車と同じモノが止まっていた。
俺たちが近づくと黒のタキシードを着たいかにもThe執事という風貌の男性が立っていた。
「お帰りなさいませ佑厘佳様。そして、お久しぶりです。薫様。」
「ただいま、黒石さん。覚えてる薫?ちっちゃい頃、遊ぶ時に一緒にいてくれた·····」
「あ!あのダンディーなおじさん!」
「ほっほっほ。思い出してもらえて光栄です。それでは、車にお乗り下さい」
左側のドアを開けてくれて俺は乗り込んだ。
◆
俺は左側佑厘佳は右側に座った。
数キロ進むと佑厘佳が話し始めた。
「黒石さん。例のアレを」
「承知しました」
ハンドルの右側にあるスイッチを押すとドアからテーブルが出てきた。上には本が乗っていた。
「あ!こ、これは·····俺が買えなかった『君に届けたい』の初回限定盤!ど、どうして!?」
俺は驚きすぎて声が裏がったり、吃ったりした。
「ネット通販って知ってる?」
「あ、その手があったか!」
「「HAHAHAHA」」
完っ全に忘れてた。ネット通販なるちょー便利なものを。
その時、俺は思い出した。この車がひとりでに動いているのではなく、人によって動いていることを。
「っておいーーー!何ナチュラルに黒石さんに俺のヲタバレをしてるんだよ!」
「あ、大丈夫よ。私からあなたが
「なら、安心·····じゃねーよ!なに人の秘密バラしてんだよ!お前のもバラすぞ!」
俺は悪代官のような顔で脅しをかけてみたが、それは全くもって交換発揮しなかった。何故なら·····。
「どうぞ!けど、意味は無いわ。何故ならもうバレているから。おーほっほっほ」
「え!バレてる!」
「ほっほっほ」
突然、黒石さんが笑いだした。
「そうですよ薫様。ある日少しお嬢様の部屋で躓いてしまって、転ける時に本棚と接触をして本を何冊か落としてしまったのです」
「じゃあその時に降ってきた本が·····」
「いえ、本を戻そうとすると裏側に空洞があるのを見つけ、男特有の冒険心というのが働いてしまい本棚をずらすと、そこに大量の男性がイチャイチャしている本を見つけてしまい、その時に·····」
「私が帰ってきてバレちゃったって訳」
「いや、隠し場所斬新!」
斬新すぎるだろ。だって本棚の後ろにもう1つ本棚を置くなんて常人じゃあ考えられねぇぞ。流石、金持ちと言ったところだな。
「あ、そうだ。お金渡さねぇとな」
「いいえ、お金は結構よ。お礼はデートで十分よ。ウフッ」
「あぁ、わかった!」
「それじゃあ今度の日曜日ね」
「了解」
「って、え!え!え!」
口は10cmほど空いており、目は今にも飛び出しそうなくらい見開いていた。
「デートよ。いいの?」
「あぁ、もちろん。俺たちはお互いの性癖を語り合った心の
「YES!」
このあと俺達は本を語り合って家に帰った。
「今日はありがとうごさいました。黒石さん」
「そんな滅相を無い。久しぶりにお話出来て楽しかったです」
「それじゃあまた」
「うん。またね〜」
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