第33話 一時の休息

 フルールの街に着いた。色とりどりの花があちこちに植えられ、街の中心部には各村から届けられた材料を使い店や市場が建ち並ぶ。エスポワール1の大きな街だった。ここには貴族も多く住み街は活気に溢れていた。

 コントラタック隊の戦士達は長旅を癒し、この先の戦いに備えて自由行動が与えられた。


「素敵な街だわ!」


 タマ子は市場の活気に大層喜んだ。


「お城の近くのスヴニールにも市場はありますが、タマ子王女様はお出かけになった事はございませんもんね」


「カヤ、何か美味しい物を買おうかしら…」


 そこに弟のセオがイカの丸焼きを頬張りながらやって来た。


「お姉様、これは凄く美味しいですよ。いくつでも食べられます」


「まぁ、セオったら!子どもみたいね!」


「お言葉ですがボクはまだ14歳!本当の子どもです」


「あ、そうだったわね」


 タマ子が笑うとセオも笑った。久しぶりにのんびりした時間だった。


「僕は皆の所でまたなにか買って食べて来ます」


 そう言うとたいらげたイカの串を持ったまま走り出した。


「ほんと、まだまだ可愛い子どもだわ」


「誰が子どもなんだい?」


 そこにハリーがやって来た。


「ハリーじゃないのは確かよ」


 ハリーはもう25歳。立派な大人だ。


「俺はタマ子と初めて会ったときから大人だったからな。あの鼻たれっ子が懐かしいよ」


「鼻たれっ子?!誰よ!私はそんなんじゃないわ」


「そうだな。愛くるしい女の子だった…頭が良くて口が達者で、可愛いかったな…」


「あ、あの私ちょっと食べたい物をみつけたので行って来ます…ハリー様、タマ子王女様をお願いします…」


 カヤは気を使ってその場を離れた。


 ハリーはそれに気付きタマ子を市場から離れた庭園に誘った。


「凄いわ、見た事のない花が沢山!」


「フルールは花の街と言われているからね」


「でも私はまだ何も食べてないのよ…食べたかったわ」


「後で一緒に廻ればいいさ!それよりタマ子…」


「ん?」


「明日の朝でお別れだ」


「お別れだなんて…私は城に戻ってハリーは魔界に……えっ?危険だから?そういう意味?」


「そうだ。何が起こるか分からない。またどんな魔族がいるのか、どんな危険が待ち受けて居るのかも分からない…治療隊もいるがやはり不安だ。自分はもとより隊員達の身の安全も守らなければな……」


「ハリーらしくないわね…もっと勇ましい人かと思ってたわ」


「時には落ち込むさっ…こんな事を言えるのはタマ子ぐらいだからな。失望させたなら申し訳ない」


「失望なんて!ハリーも人間らしさがあって、かえって安心したわ」


 そう言って笑うタマ子を愛おしそうにハリーは見つめた。

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