第四十六話 毒殺未遂



 ミスティアとシャマルが退室した後、セレーヌも一時的に席を外そうと立ち上がる。 


「キャー!!」  


 悲鳴が上がったと同時にばたんっと何かが倒れる大きな音がした。

 セレーヌが振り向くとごほごほと咳込み、倒れるノアの姿がある。


 カップが倒れ、飲みかけのお茶がテーブルから床へと流れ落ちていた。


「何事なの⁉」


 セレーヌの声に緊張が走る。


「ど……毒が入っていたようで……ごほっ……」


 ハンカチで口元を押さえ、うずくまるノアに給仕のメイドが手を貸す。


「毒ですって⁉」

「幸い、すぐに気付いて吐き出したのですが……」


 吐き気や眩暈をノアが訴える。


「すぐに医務室へ!」

 

 セレーヌがメイドと護衛の兵士に命じるが、それをノアは手で制する。


「だ……大丈夫です、大事には至りません……」


 ふらつく、身体をメイドが支える。

 そうしてメイドは床を指さす。


「あ、あそこに何か落ちてます!」


 セレーヌは背筋が冷えた。


 メイドが指す場所は先ほどまでミスティアが座っていた場所だったのだから。


「これは、毒物では?」


 メイドの一言で周囲が騒然とする。


「すぐに、今の者を取り押さえて下さい」


 メイドの言葉に賛同する声が上がる。



 マズいわ。


 気分が悪そうに俯くノアがにやりと笑うのが見えた。


 まさか、この場でミスティアを犯人に仕立て上げるつもりなの⁉


 ノアがミスティアを排除したい理由は見当が付いている。

 カフローディアがミスティアを気に入っているからだ。


 セレーヌの脳裏に過去の出来事が蘇る。


 今日の様なお茶会の席で侍女だったミーナを泥棒呼ばわりしてみんなの目の前で吊るし上げたのだ。


 泥棒呼ばわりされた彼女はもう社交の場には出て来れなくなってしまった。


 このままではミスティアもミーナの二の舞になってしまう。

 しかも、貴族の毒殺未遂だ。泥棒呼ばわりでは済まない。


 セレーヌは背中に嫌な汗をかいた。


「ノア様、大丈夫ですか?」

「伯爵家の御令嬢になんてことを!」

「すぐに捕まえなくては!」


 周囲の声に押され、護衛の者達が動き出そうとする。


「失礼致します」


 その声にセレーヌは更に焦ることとなる。


 何で戻って来たのよ!


 まさかの騒ぎを聞きつけてミスティアとシャマルが戻って来てしまったのだ。


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