第十六話 時計師と礼騎士
「一時的だがお前のパートナーは俺が務める。四十六時中、引っ付いているわけじゃない。時計師としての基礎的な事と役割を教える教育係みたいなもんだ」
ミスティアはリーズと横並びに歩いていた。
庭園を突き抜けてとある場所に向かうというリーズに素直について来たのである。
移動しながら今後についても話している最中だ。
「教育係?」
「時計師として一人前になるには一人で城外任務をこなせるようになることだ。まず仕事をする前に、自分の力量、属性、力の発動条件、それらを理解して使えるようにならないと城外任務に出せないからな。で、時計師は最低一人の専属礼騎士をパートナーにしなきゃならない。俺は正式じゃなくてお前の専属礼騎士が決まるまでの一時的なパートナーだ」
「なるほど。よろしくお願いします」
「あぁ、よろしくな。具体的な期間は決まってないが、この騒動が落ち着くまでだろうな」
「具体的には私は何をしなきゃならないの?」
「とりあえず、一日に二時間は勉強会を行う。まぁ、研修みたいなもんだ」
「二時間でいいの?」
もっと時間をとられると思っていたが嬉しい誤算だ。自由時間が多いのはあるのはありがたい。
バリバリ軍隊みたいに何か特訓をさせられるのかと思っていた。
「時計師ってのはどうにも変人、変態、かと思えばデリケートでナイーブな奴らが多くてな。こっちも非常に扱いにくいんだ。面倒な連中が非常に多くて礼騎士の方がストレスで病み負けするんだよ」
そんな連中と同じ括りにされた訳か、私は。
「てな訳で。極力、時計師と過ごす時間は短く。それが時計師と上手く付き合っていくコツだ」
ドヤ顔で説明をするリーズは私が時計師だということをお忘れなだろうか。
「まぁ、時計師と礼騎士の夫婦や恋人達もいるがな」
守り、守られ、恋に落ちてそのまま結婚する者も多いとリーズは言う。
「へぇ。凄いね」
ミスティアは感嘆の声を漏らす。
守り、守られ、お互いを支え合い、落ちる恋は憧れる。
素敵なことだと思う。
「時計師と礼騎士には相性があるんだ」
「なるほど?」
「性格的な相性じゃなくて、時計師と礼騎士の相性だ」
「どういうこと?」
ミスティアが首を傾げるとリーズは続けた。
「礼騎士は時計師を守るために生まれたと言われている」
「うん」
「時計師がいなければ礼騎士の力は必要性がなく、礼騎士の存在意義はないと言われている」
「はい」
「礼騎士の力は時計師を守るために発揮され、時計師を守るために力を増すと言われている」
「はい」
「礼騎士には時計師を守りたいと思う本能的なものがあるんだ。それがより強く働く相手が相性の良い時計師ってことだ」
「なるほど……えっと、じゃあ、礼騎士の技量は時計師の技量ってこと?」
「いや、そういう訳じゃない。技量と相性は別の話だ。簡単に言うと起爆剤みたいな感じだな。相性が良ければ、礼騎士は自分の技量以上の力を発揮できるんだ」
「……栄養剤みたいな感じか」
ミスティアは自分なりの解釈で内容を飲み込んだ。
「いるんだよ、たまに。礼騎士としての技量はそんなに優れてはいないのに時計師との相性が抜群に良くて高位の礼騎士と肩を並べる奴」
反則だろ、っとリーズは言う。
「俺ら礼騎士からしたら、守りたいっていう本能を揺さ振られている相手からそうそう離れられないし、それが異性ならなおのことだ」
「なるほど。守り、守られ、恋に落ち、ってか」
「そういうこと。ただ、そこまで抜群に相性の良い相手と出会えるのは稀だ。だいたいはそこそこの相手で妥協する」
「じゃあさ、相性の良い礼騎士を見つけた時計師はどうなる? パワーアップしたりするの?」
「そういうのはない」
「時計師にはそういう特典はついて来ないのか」
「時計師が能力を限られた条件でしか使用できないっていうのは時計師を襲う時魔から自分が時計師だと悟られないようにするためだと言われているんだ。相性の良い礼騎士を傍に置けば時魔に襲われても礼騎士が必ず守るっていう安心と信頼で能力を使いやすくなるらしい」
そういうことか。
「君はその運命の人がいるの?」
「いたら一時的にでもお前につけとは言われないだろうな。それにそんな相性の良い運命の相手と出会えるのは極稀だ」
「なるほどね」
「だが礼騎士は少しでも自分と相性の良い相手をパートナーにしたいと思うもんだからな。ほとぼり冷めたら、パートナー探すようにするが……お前の場合は名乗りを上げる騎士がいるだろうな」
「え、私のこと守っても良いよ、って言ってくれる人いるってこと?」
「そりゃあ、どうせ守るんなら女が良いに決まってる」
「なるほど」
男ってさ、そういうもんだよね。
ミスティアの脳裏に浮かぶのはウォークの姿だ。
彼を本当の意味で騎士にできる女性がいるとすれば、それはこの上なく羨ましいことだと思う。美しい人か、愛らしい人か、教養のある人か、全てを兼ね備えた人か。
そんな女性がいるのかは分からないがミスティアは存在するかも不明な女性を相手に小さな悋気を覚えた。
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