第9話 「袋小路」


 昼時の人々で賑わう通りをカナリは走る。

 どうやらあの二人組に列車にいたという事はしっかりとバレてしまったらしい。


「ちょっと待って!」


 背後から呼びかけてくる声と、二つの足音が近づいて来る。

 視線だけ後ろに向けると、案の定、あの二人組――ナッシュとイズミが追いかけてきていた。


「ちょっと待って! 話があるんだよ!」

「私には何一つ! それに空賊に待てと言われて待つ人間はいません!」


 ナッシュにそう言い返して、カナリはさらに速度を上げる。

 話しとは何だろうか、さっきの事に対する報復だろうか。

 あまり良い予感がしないなぁと思いながら、カナリはニクスの町を駆けた。

 大通りから脇道へ、脇道から細い道へ。

 ニクスには来たばかりで町の構造は分からないため、果たしてこれが大丈夫な道なのかは分からない。

 だがとにかく走っていれば、いつか撒けるだろうとカナリは考えていた。

 これでも体力はある方だ、とにかく走って引き離そう――と思ったのだが、二人組もしっかりとその後をついてくる。


「しつこい」


 走りながら小さく呟く。

 カナリもカナリでそこそこな速度で走っているつもりなのだが、足の長さか体力か、二人が遅れる雰囲気はない。

 そうして走って、走って。

 ついにカナリは袋小路に辿り着いてしまった。


「……しまった」


 目の前の壁を前に、ようやくカナリは足を止める。

 そして上がった息を整えながら、仕方なくカナリは振り返った。


「や、やっと追いついた……」

「何この体力……オッサンにきっつい……」


 見れば二人もぜいぜいと肩で息をしている。

 カナリはそれを見ながら、


「いい加減しつこいですよ、はた迷惑な空賊さん」

「はー……やっぱり列車の時の嬢ちゃんだったか」


 カナリの言葉に、イズミの方がふう、と息を吐いた。

 その背中にライフルを背負っているのが見えて、カナリは反射的に腰に下げた技巧銃に手を伸ばす。

 それに気付いたイズミは少し目を細めたが、ナッシュの方は構わず一歩、カナリの方へ足を踏み出して来た。

 ナッシュの腰にも剣が下げられている。


「なぁ君、ちょっと聞きたい事があるんだけどさ」

「スターライトの破損状況ですか?」

「いやいや、それは別に……」


 また一歩、ナッシュは近づく。

 カナリは目を細め「それとも」と、言葉と同時に技巧銃を抜き、その銃口を突きつける。


「船を落とした事への報復ですか?」

「うわっ」


 カナリの行動に、ナッシュは身構える。

 ぎょっとした顔をするナッシュとは正反対に、イズミの方は技巧銃をしげしげと眺め、


「お、それがあの時撃った銃か」


 と面白そうに呟いた。


「船には傷一つついていないのに、あの衝撃。一体どんなものかと思っていたんだよな」

「良かった。船の破損具合は正直心配だったんですよ」

「おうそうか、ありがとよ」

「ちなみに、船を落とした事には申し訳なく思っています。船に」

「船にかい」


 半眼になるイズミにカナリは「当然です」と頷いた。

 そんなやり取りをするカナリとイズミにナッシュは困惑した顔になる。


「いや、話が逸れてるから。そうじゃなくて、俺達は――――」


 そうしてまた一歩、ナッシュが近づこうとした時。

 ダァンッ、

 と、カナリは技巧銃を撃った。

 ナッシュのさらさらとした金髪が揺れる。

 銃口はナッシュに向けられていたものの、狙いは敢えて外している。

 頬に少しかすったくらいだ。


「―――――」


 ナッシュは唖然とした顔で、技巧銃のが通過した右頬に手を当てる。

 幸い傷はついていなかった。

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