第4話
「ねぇ、悠君」
「ん?」
「ばれない、かな?」
「大丈夫だって」
「そっか」
俺と癒花は外へ出ている。俺達のベッドの中には、もちろん誰も居ない。居るとしたら、ベッドの中に入っているクッションだけだ。
(まぁ、本当にばれたら終わりだけど…。めちゃくちゃ怒られるだろうなぁ)
先生や看護師、両親に怒られることを想像すると背筋がゾクリとする。
俺は怖い想像するのを止めると苦笑いしながら癒花に言う。
「あ、まぁ、その時はその時だな。…素直に謝ろう」
「だね。ふふっ」
素直になるということは大事だ。変に頑固になると、両親も先生達も更に激昂するかもしれないからだ。特に、本気で怒った時の親は怖い。
「そういう時は反抗すればいい。反抗期だと思わせとけばいいさ」と、半グレの少年なら言うだろう。しかし、そんな言葉は俺の辞書には存在しない。だって、反抗したらバリアを張られているみたいに倍になって返って来るからだ。怖い怖い…。
そんなことを考えていると、俺達は流星群が一番見えそうな場所へと辿り着いた。
そこは病院の裏にある小さな高台だ。
少し歩くのが大変で俺は癒花の体の負担にならないように、途中癒花を背負って歩いていた。足の怪我もだいぶマシになっていたし、何よりも癒花の体重は軽いから背負うことに関しては全然問題なかった。
そのおかげか、癒花の顔色も良く道中発作を起こしそうな感じもなかった。
「わぁ~! 流星群が来なくても、街の明かりが星みたい!」
「そうだな」
癒花が嬉しそうに言ったのが、俺にとって凄く嬉しかった。来て良かった、決心して良かったと思えた。
「ねぇ、悠君。流星群って何時頃見えるのかな?」
「えっと、看護師さんの話だと0時ぐらいって言ってたかな?」
「0時かぁ。なら、もうすぐだね♪」
「え? 癒花、時計持ってきたのか?」
「ううん、持ってないよ。体内時計だよ」
「………」
(体内時計って…)
「あ、あははは…」
「ん?」
癒花のちょっぴり不思議な所に俺は苦笑する。
そして、0時が来るまで俺と癒花は他愛ない話しをした。今日の晩ご飯には嫌いな野菜が入っていたとか、別の病室の人からお菓子を貰ったとか。
そんな話しをしていると、時間はあっという間に過ぎ、遂に0時を迎えた。
「あ」
「ん? どうかしたか?」
「今、0時になったよ」
座っていた俺達は顔を上げ空をを見上げる。でも、そこには綺麗な星と月しかなかった。
「流星群、来ないね」
「あ、あぁ……」
(来ない、のか? お願いだ来てくれよ…! これが最後かもしれないんだっ! お願いだ…!)
俺は一生懸命空に願った。でも、願いを叶えてくれる気配は全然無かった。
ただただ時間が過ぎていくのに、俺の心は焦燥している。それでも、流星群を待ち続けた。
若しかしたら、もうすぐ来るかもしれない……きっと、もうすぐ――そんな気持ちで流星群を待ち続けた。
そして、かれこれ30分が経った。
「来ないね」
「あ、あぁ…」
「帰ろうか、悠君」
癒花が、ニコッと微笑みながら言った。俺はそんな癒花の笑顔に胸が痛くなる。
「でも、癒花――」
――その時。
「あれ ?今……」
「え?」
癒花は空を見上げていた。引き留めようとした俺も、癒花に釣られて空を見上げる。
俺は、その景色に目を見開き唖然となっていた。空には沢山の星々が流れていたのだ。
「わぁ~!!」
「………」
(来た……流星群が来た……来てくれたんだ!)
「悠君」
「あっ、な、なんだ?」
願いが届いたことに思わず涙目になる俺は、慌てて腕で涙を拭い癒花の方を見る。
「今日はありがとう」
「え?」
「外に連れ出してくれて。今日はね、今までにないぐらい幸せな日だった♪ この事は、ずっと忘れないよ。忘れられない日だよ」
俺はその言葉を聞くと、また泣きそうになった。
「お、俺も、今日は最高の思い出になった」
「ふふふっ」
「あははっ」
俺達は笑いあった後、手を繋ぎながらどこかへと流れ続ける星々を見ていた。
こんな日が一生続けばいいのに……そう願いながら、俺は癒花の手をギュッと握った。
そして、流星群を見ること数分後、そろそろ癒花の体にも障るといけないと思い、俺達は流星群を見た後、自分たちの病室へとバレないように向かった。
幸い、看護師達はダミーのクッションには気づいていなかったようだ。
「それじゃぁ、また明日な」
「うん。また、遊ぼうね」
「あぁ。おやすみ」
「おやすみなさい」
癒花を送った後、俺は足音と気配を消して廊下を歩き、ナースステーションを通り過ぎて自分の病室へと向かう。
俺の今の気持ちは、とても満足していた。
一緒に思い出を作れたこと、癒花の笑顔を見たことが嬉しくて俺は自分のベッドに入っても中々寝付けなかった。
「明日、また今日の話しをしよう! きっと、癒花も楽しそうに話しをするだろうなぁ~」
目を瞑ると、まだ目の前には流星群が流れている。
今日作った思い出を、俺は眠りにつくまで頭の中でずっと思い返していた。
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