第3話
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翌日。俺は、一晩中考えていた。
どうしたら沢山の思い出を癒花に作ってあげることができるのかを。
そして思いついたのは結局『外に出る』という事だった。
(約束は、やっぱり守りたい。なにより癒花を笑顔にしたい。癒花を喜ばせたい)
そう強く思った。
癒花の体には負担がかかるかもしれない。けれど、このまま何も無い消毒液臭い病室で何も出来ないままは俺自身も嫌だった。
これは、俺のエゴだ。だから、顔を上げ俺は決心した。
だが、決心したはいいが、その行動をいつ決行しようか考えながら病院の敷地内にある中庭でボーッとしていると又もや看護師達の会話が風に乗って聞こえてきた。
今度のは決して立ち聞きでは無い。たまたま会話が聞こえてきただけだ。
「ねぇ、今日ってあの日だよね?」
「あの日って?」
「ほら、この雑誌に載ってる」
「あぁ、流星群のことか!」
(流星群?)
声からするに20代の若い看護師だろう。話し声の他にも風乗って美味しそうな匂いもするので、恐らく昼食を食べていると思われる。
看護師達は俺の存在に気付かずに話しを続けていた。
「私達も見たいよね~」
「見たいね~。でも、私達はその日仕事があるからね……」
「そうなんだよねぇ…。本当はさ、彼氏と見るはずだったのにぃ…。はぁ……」
「どんまい、どんまい」
(ふ~ん。今日って流星群が来る日なんだ。ん…? 流星群??)
俺は看護師達の会話からピンと閃いた。漫画やアニメでよくある、電球が頭の上でピカっと光るように頭の中で閃き、考えが雲が晴れるようにスーッと消えていった。
「これだ!!」
思いつくと、俺は慌てて自分の部屋へと戻る。そこでようやく看護師達も俺の存在に気がついたのか、突然、立ち上がり慌ててその場を立ち去る俺の姿を見て首を傾げていたのだった。
病室に戻って来ると、早速その行動に移すためのプランを考える。思いつきで行動して、もし巡回中の看護師達にバレると後々厄介だからだ。
「カモフラージュはコレにして――」
色々考えたことを適当な紙にメモしていく。
そうして考える内に、時間はあっという間に過ぎて行った。
最初は癒花にこの事を伝えようとした――が、ここはサプライズ若しくはドッキリさせようと思い、俺は今からこの事を癒花には話さないよう決めた。
そして、遂にその時間がやって来た。
――夜。
就寝時間になると病棟の電気が消える。そして、看護師達が決まった時間に病室に訪れ巡回して来る。
最初の巡回中はベッドの中で寝ているふりをしていた。最初からカモフラージュしていると次の巡回の時に看護師が怪しむかもしれないからだ。
1回目の巡回で看護師が持つ懐中電灯の光と足音が遠ざかると、俺は外靴を持って静かに自分の病室を出て癒花の病室へと向かった。
ナースステーションを通る時は息を殺し、看護師達にバレないように屈みながら先へ進み、歩く音が鳴らないように病院のサンダルを脱ぎ靴下で忍び足で歩いたり。
そして、癒花の部屋の前へと辿り着くと、俺は深呼吸をして病室の扉を小さくノックした。
――コンコン。
「はい?」
てっきり、もう眠っているかと思えば、部屋の中から癒花の返事が返ってきた。
俺はそのことにホッと安堵の息を吐き扉を静かに開いた。
「まだ起きててよかった」
「え、悠君?! こんな時間にどうし――」
「わわっ!! し~! し~!」
慌てて癒花の口を手で押さえる。
「癒花、静かにするんだぞ?」
コクリと癒花が頷くと俺はゆっくり口から手を離した。癒花は声を小さくして俺に聞いてくる。
「えっと…突然、どうしたの?」
「癒花、今から外に出るぞ」
「え?」
「約束したろ?外に連れて行ってやるって」
「う、うん。でも、それは――」
「――元気になってから、だろ?」
「うん…」
癒花は、少し不安そうに頷いた。俺はそんな癒花の不安を少しでも安心させるように笑いかけた。
「実は、今日、流星群が来る日なんだってさ」
「流星群?」
「そう! 滅多に見れない流れ星だ! な、せっかくなんだし一緒に見ようぜ!」
癒花は考える。そんな癒花を見て、今度は俺が不安になった。
もし癒花が断ったら、その時が来るまでずっと病室で過ごすことになる。約束は永遠に果たせなくなるからだ。
(一緒に来る、よな?じゃなきゃ、俺達……もう、約束を果たせなくなるんだ)
不安な気持ちを胸に癒花の返事を待つ。
そして、癒花がゆっくりと口を開いた。俺は癒花の口から出て来る言葉が怖く、思わずぎゅっと目を瞑った。
(お願いだ……行くって言ってくれ……!!)
「うん。行くよ」
「……え?」
「私も流星群を悠君と見たい。一緒に行こう、悠君」
「そっか……そっかっ!」
(よかった!)
癒花のその返事に安堵の息を吐くと、初めて会った時のように…癒花が俺に手を差し伸べた時のように、俺は癒花に手を差し伸べた。
「癒花、行こう!」
「うん♪」
「もちろん、このことは俺達の秘密だからな」
「ふふっ、わかってる」
そして、俺達はこっそりと病院を抜け出したのだった。
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