第128話 「127話」

「そう言うことか……分かったよ。 ま、たまに気が向いたら果物分けて貰えるとありがたい、勿論お礼はするからさ」


「ええ、たまにであればオッケーすよ」


分かってくれたらしい。

でもやっぱもっと食べたいには食べたいらしく、気が向いたら分けて欲しいとのことだ。

それぐらいであれば問題ないだろうし、とりあえずオッケーと答えておく。



さて、ご飯を食べたらあとは見張りをするか休むかなんだけど……今日はずっと起きてよーかなと思う。


今日は走っただけだからそんなに疲れていないし、それにレベルが上がった今では多少徹夜しようが体に影響はほとんどない。


あー、でも万が一に備えて桃は食べておこうかな。

索敵するのに広範囲に根っこ這わしているし、多少吸っても……ああ、遠くにいる敵から吸えばいいか。太めの根っこを用意するのがちと面倒いけど、それだけだ。




幸いというか単独でいる敵が索敵の範囲内にちょこちょこ居るし、こいつらから吸ってしまおう。


ぐさっと。ずぞぞぞっとな。



……これやられる方からしたらたまったもんじゃないよね。

急に地面から根っこばっさぁー出て来て、絡みつかれたと思ったら挿されて吸われるとかさ、ホラーですわ。


ごちそうさまでした。



「んー、やっぱこの桃おいしい……タマさんそろそろ寝る?」


「にゃあ」


出来たて採れたての桃をもしゃもしゃ食べる。うまし。


タマさんが桃に反応しないなーと見てみると、眠くなってきたのか目をしぱしぱしていた。


タマさんって眠いときすっごい猫っぽくなるんだよね。

何というか幸せです。



っと、寝るなら寝床用意しないとね。

膝の上でもいいけど、トイレに行きたくなった時が悲惨だから……。


「ほいほい。 ……おし、どうぞ」


蔦を伸ばして籠を作る。ついでにふわふわな葉をにょきにょきと生やして、そこに毛布をフワッとかければ特製ベッドの完成である。


これならトイレの心配もないし、毛布越しにタマさんのモフモフ感を堪能できる。我ながら素晴らしいものを思いついたもんだ。


「また器用なことしてんな、お前」


「この体にも大分慣れましたからねえ……」


やろうと思えば大抵のことは出来ちゃう気がする。

家なんかも作れるんじゃないかな? そんな家に住みたいかと聞かれれば、答えはいいえなので作ったりはしないけど。



っと、それよりタマさんですよ、タマさん。


毛布を籠にひくと、のそのそとタマさんが入り込み、そしてごろんと寝転がる。

俺は流れるような動きでスッと櫛を取り出すとタマさんの毛をすいて、そっと上から追加で毛布を掛ける。


タマさん、猫と同じようにぴったり収まるサイズが好みらしく、俺の対猫センサーで収集した情報を元に作られた籠はタマさんがすっぽり収まるサイズとなっている。


籠いっぱいにモフモフがみっちり詰まっているのはやばい。

思わず顔を埋めて深呼吸したくなる。



「地面に寝ると腰とか痛くなるんで…………皆さんのも後で用意しましょうか?」


「お、おう……」



皆さんのも用意しましょうか?と顔を向けたらなんかゴリさんが引いた顔してた。



どうやらすっごいにやけた顔をしていたらしい。ごめんて。




「それじゃ俺たち寝るから見張り頼むわ」


「うぃっす」


数名の見張りを残して他はそろそろ寝るらしい。


俺は見張り組だね。

興奮して寝られる気がしない。


「すげぇなこれ……ベッドみてえだ」


あ、そうそうさっきの特製ベッドはちゃんと人数分用意したよ。タマさんみたいに籠……ではなく、きっちりベッドの形をしたやつね。


ものすっごい物欲しそうな目で見られたからねえ……別にそんな見なくてもちゃんと用意したのにねー。



野郎の感触とか楽しみたくはないので、きっちり蔦は切り離してある。ご安心めされよ。

女性もいるっちゃいるけど、俺そこまで変態じゃねーですし。



とまあ、そんな感じで見張りをしてた訳だけど……。


「ちょっとトイレに」


「おう」


尿意さんが襲ってきた。


やっぱ尿意は我慢できないのです。

ゴリさんに一言断って、皆から少し離れたところでトイレをすませよう。



「ほぁぁぁ…………おう?」


俺の根っこセンサーが何かを捉えた。

最初はぷるぷるしてる俺の体の振動かと思ったけど、そうじゃない……これは――



「……」


ぷすーと寝息を立てるタマさんにジリジリと近付く人影。

それはタマさんの元へとたどり着くと、じっとタマさんの寝姿を見つめ……すっとおもむろに手を伸ばす。


伸ばされた手は頬に触れ、静かに沈み込んでいく――





「寝てるところを触るのは頂けないでありますなあ?」


「なっ」



――なんか口調おかしくなった。


ケモナーの魔の手からタマさんを守るべく、手を洗う間も惜しみダッシュでタマさんの元へと向かった俺。

間一髪のところで手とタマさんの間に顔を滑り込ませることに成功していたのだ。


なんで顔って? なんとなくだよ!

てか絵面がシュールだなこれ。



まあそれはさておき。

このケモナーさんをどうするか……。

こっちむっちゃ見てるし。睨んでる訳じゃ無いけどむっちゃみてる。


タマさんに触れようとしたことはー……まあ、寝ているタマさんは可愛いから気持ちは分からんでもない。

かと言ってそれを許すって訳にはいかん。



人の相方になにしとんじゃーってのと、猫好きとして睡眠の邪魔するのは許せんっ。



とは言ったもののどうするか……肉体言語はさすがにね? 下手すると負けますしー。

ここはあれだ、猫好きにぐさっといく方向で攻めてみよう。




「寝てるところを触ると嫌われますよ?」


「……ぐすっ」


効果は抜群だっ!


「え、あ、ちょ……まじっ!?」


まじすか。

まさか泣くとは思わんかったぞっ!?


「あー……俺ちょっと席外すな…………ウッド?」


そばでその様子を迷惑そうに見ていたゴリさんだったが、ケモナーさんが泣き始めたのを見てすっと席を立つ。

だがその時にはもうゴリさんの足に俺の腕が絡みついているのであった。


「ゴリさんどこ行くんです?」


逃がさん。

逃がさないよ?


「いや、俺が、いたら、邪魔……だろ。 くそっ、お前なんでそんな力強い……てめぇっ桃食いやがったな!」


「離さない!この手は絶対離さないからねっ! 俺を一人にするなんて絶対許さないんだから!?」


備えあれば嬉しいなってなあ!

なんか違うけど気にしちゃダメです。


逃げようとしたゴリさんの足にしがみついた俺は全力で止めに掛かっている。

本当ならゴリさんの方がずっと力は上だけど、俺はさっき桃食べたからゴリさんも引き剥がすのに苦労している。

それに――



「は、離せっやめろぉ! 触手を這わすんじゃねえ!」


――俺にはこれがある。


もうね、ゴリさんの足にすがりつくようにガシッと掴んだ男からさ、触手がわさぁって生えてゴリさんに向かっていくの。ホラーですね、ホラー。


逃がさないよ。

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