第68話 「67話」

さー出すぞーと袖をぐいっとめくると、新人達が一斉にギョッとした表情でこちらを見る。


なんぞ?

俺の腕に何か変な物でも……いや、腕自体が変なものだけど。


まあ見慣れないとビックリするかもね。

普段は隠してあるし、果物作るときに見えるかもだけど一瞬だし、見たことない人はそれなりに居るんだろう。


……ちょっと反応が面白かったので、手をわきわきと動かしてみせる。わきわき。


「えっ……え、えぇぇえっ!?」


「お、おおう?」


思ったより反応しますな。

元気っ子なマールちゃんがえらい食いついてきた。


「そ、それって本物の木?腕?ですか……ぎ、義手?」


「義手じゃないよ、本物の腕だよ」


義手だったらこんな動かせないっしょーと言うことで色々動かしてみせる。わっさわさ。


「……鎧じゃなかったの」


「ああ、中に着込んでる様に見えたのかな? ほら、体が石になってる人いるでしょ? あれの木バージョンだよ」


どうやらキュカちゃんは中に鎧を着込んでいると思っていたらしい……服の中に鎧を着込む人何て居るんかいな。


まあいいや。

せっかくだし生身部分との繋ぎ目も見せてあげよう。

お腹をぺろっと捲って、蔦を一部解除する。すると蔦の下から生身部分が現れ……おう、さらにお顔が真っ青に……。


……冷静に考えるとちょっとグロい?キモイ?かも知れない。

めんご!


「あのしゅるしゅる伸びたのも自前だったんですね……」


「うん、あれ超便利っしょ」


ペールくんや、あれも自前だから。

……なんで期待した眼差しで見てるんですかねえ?



「んじゃま、作るね」


深く考えるのはよそう。

とりあえず果物作んべさ。




俺の腕からにょっきにょきと草というか木というか、何かが伸びてやがてバナナの木となり、バナナがなり始める。


数は少なめである。1人1本てことで合計5本だけだね。


たぶんこの人らは悪い人らじゃないだろうけど、噂が変な方向に広がっていっぱい作れると思って後々色んな人から要求されたりすると面倒だし。


あと作る度に補給が必要なんですう。って感じでちょいと大袈裟に話しておこうかなーとも思ってる。

彼らの口から大量に作れないという話が広まれば後々の面倒事もなくなるかもだし。



まあ、今のところ変なこと言ってくる人はおらんのだけどね。

単に変な奴が居ないのか、それとタマさんの存在がでかいのか。

俺としては両方だろうなーと思ってる。




とかなんとか考えている間にもバナナが完成しましたよっと。


「……こりゃまた見たことない果物だな」


「バナナって言います。 栄養もあるんで体動かすときにいいと思いますよ」


スオウさんが興味津々といった感じでバナナを見つめている。

そんな見られると照れますな。


んじゃ、さっそく食べてもらおうかな?


「……ふんっ」


とりあえずもいで………毎度の事だけど地味に痛い。

一本だけ手にとって、皮を剥いてみせる。


まずは食べ方教えないとだからね。


「こうやって皮剥いて食べます」


バナナってお手軽に食えるのがいいよね。

皮もすぐ剥けるし、棒状だから食べやすいし手も汚れない

その上美味しくて栄養もばっちりときている。


うむ、素晴らしい。



さあ、食べるが良い。

とりあえず徐々に近付いてきているスオウさんから、いやまじで近い。


「それじゃ一つ貰おうか……甘っ! ……うまっ!?」


ふほほ。美味しかろう?

トリップするがよかろうなのだ。



さあ、新人達よ。次は君たちの番だ。


俺産の! バナナを! 食べるが良い!


ふふふ。



「……」


「……」


……あるぇ?

なんで皆して無言になってらっしゃるのでしょうか? 泣きそう。


「おーい?」


「ひっ!?」


いや、そんな目の前に化け物が現れたような反応しなくても……。


「バナナ食べない?」


「……い、ぃぃ……っいただきましゅ」


えぇ……なんか泣きながら食べ始めたんですけど。




冷静になって考えると。

半身……というか今は全身か。 全身むっきむきの木で出来たハル〇みたいな奴の腕に実がなって、それをさあ食えと渡される。


うん、泣くわ。


てか平気な顔して食ってるスオウさんがおかしい。

いや、でもゴリさんにタマさんも平気で食ってたか……あ、リタさんはちょっと躊躇ってたかな?


……なんだろう。俺の回りってメンタル鋼な人多くない?



「あー……やっぱ美味しいな。 バナナ」


バナナ美味しいなーと現実逃避する俺。


「……美味かった。 本当に美味かった」


そうでしょうとも。

でも、もう無いからね? そんな目でみても上げません!


「す、すごく美味しかったです! こんな甘くてすごいの初めてです!」


「こんなの食べたら……他のじゃもう満足出来無くなっちゃう」


「……ぉ、美味しかった……です」


おんや、現実逃避している間にみんな食べてたようだ。

そして即落ちと……ふふ、さすが俺産のバナナである。

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