第69話 「68話」
バナナの皮を名残惜しそうに見つめるスオウさん。
ふぅと息を吐くと俺へと話しかけてきた。
「そりゃタマさんが組みたがる訳だ……なあ、これって量産出来たりするのかい?」
実際果物目当てですしねー。ははは。
っと、それよりも。
もっと作れないのかー的な話がきましたね。そんじゃ量産無理なんですぅとアピールしようじゃまいか。
「ん……出来なくはないと思います。 ただ……街やダンジョンが砂漠化することになるかと」
「砂漠? 砂漠ってあの砂だらけのだよな……どういうことなんだい?」
あ、砂漠は知ってるのね。
なら話は早い。
「果物作るのってかなり消耗するらしくて、こうやって補給しないとダメなんです」
補給が必要なんですよーと言いつつ根っこを地面にぶっさして見せる。
「ふむ? ……それ根っこか?」
根っこですわよ。
根っこをさしたの確認したところで補給開始!
ぐいんぐいんと動かして、ちょっと加減しつつ周囲から色々吸いまくる。
「はい、そうです。 それでこうやって補給すると周辺の植物からも色々吸っているみたいで……ほら、あんな感じでしおしおになってくんです。 もっと吸うと完全に枯れてしまいますね。そうなると元に戻るまでは相当な年月が必要になるかと……」
やっぱ実際見せた方が理解も早いから良いよね。
このまま吸い続けて枯れるまで見せても良かったけど、引かれてもあれだし。
なによりバナナはコスパ良いみたいであんまり吸収する必要がなかったのでやめておいた。
んま、そこまでしなくても理解してもらうには充分であったようだ。
良い感じで周囲の植物がしおしおっとなるのでスオウさんもなるほどと納得した様子である。
「ああ、そりゃ無理だな。 ……ま。もしまた組む機会あればその時は期待しても良いのかな?」
やったぜ。
あっさり納得してくれたぽい。
「ええ、それぐらいであれば」
また組む機会があれば俺のバナナ! でよければご馳走しますとも。
もっともタマさんがお腹を壊すことなんて早々……ない? ないかな……どうだろ、ちょっと怪しいぞ。
あまり気合い入れて作ると危なそうな気がしなくもない。
「それじゃ今日はありがとうございました」
その後は追加でゴブリン狩りを2ラウンドやったところで解散となった。
「いやなにこちらこそありがたかったよ。 こいつらの面倒も見て貰っちまったようなもんだからな……今日は戻らないといけないが、今度飯でも奢らせてくれ」
「ええ、期待して待ってますね」
ふふふ。
初めてって訳じゃないけどやっと出来た知り合いだ。逃がしませぬぞ。
俺はボッチを抜け出すんだ!
まあ、冗談はさておき。
今日一日過ごした感じいい人ぽいし、出来れば長くお付き合いしたいものである。
「ほら、お前らも礼言っとけ」
そう言って新人達の背中を押すスオウさん。
新人達は少し戸惑いながらもやがて口を開いてそれぞれ話し始める。
「……ありがとうございました。 すごく楽しかったです。興奮しました……」
何に興奮しましたなんですかねえ……。
ペールくんてば最初は暗い雰囲気の男子としか思わなかったけど、なんか……うん、なんかあれだ。
あれなんだよ。
「バナナ美味しかったです!」
マールちゃんはやはり元気っ子であった。
バナナ気に入ったみたいだし、機会あればまたバナナご馳走してあげやう。
あ、背も低いしバナナミルクとかいいかもね。美味しいし。
「……ありがとう。それと変なこと言ってごめんなさい」
すっかりしおらしくなったキュカちゃんです。
いやー、なんかごめんね?
あれは俺の回りにメンタル鋼な人しか居ないもんで感覚が狂ってたんだよーと言い訳してみる。
まあ、次はつんつんすることも無いだろうし、キュカちゃんにもバナナご馳走してあげようじゃないか。
4人に別れを告げ、手を振り宿へと戻る。
初めての臨時パーティーだったけど、最初はともかく中々良かったんじゃないだろうか?
能力についても上手い具合に誤魔化せてそうだし、狩り自体も順調だった。
それになにより知り合いが出来たのがでかい。
これで次ゴリさんにあったとしても「お前、まだボッチなのか……」なんて言われる事はないだろう。
よし、帰ってタマさんにお薬上げてもふらないと。
ずっと宿で待っているのも寂しかろう。
「タマさん、たっだいまー」
そんな訳でダッシュで宿に帰ったのですよ。
部屋のドアを開けてただいまするとお出迎えしてくれるタマさんが……いない。
まあ、何時もお出迎えしてくれないんですけどね!
「……おろ?」
……あれ。 それにして静かである。
いつもならだるそーな感じでニャーと返してくれるのに。
「タマさーん?」
「……にゃあ」
お?
反応があったぞう。どこじゃろ。
部屋をざっと見渡すもタマさんの姿は見当たらない。
あれ、おっかしーなーと部屋の奥に進んでいくと、お布団がもこっと盛り上がっていた。
「あ、寝てたのねごめんごめん」
ひょいと覗き込んでみればお布団の端からタマさんの頭がひょこっと出ていた。
どうやらお昼寝中だったらしい。
部屋に入った音で起こしちゃったみたいだね……ごめんねーということで頭をなでなでしてみる。
……あ、あれ?
なんか頭を手にぐいーっと押し付けてきたぞ??
なんぞなんぞと思いながら頭をなで続けると、ゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえるではありませんか。
「……ゴロゴロいってる」
やばい、ゴロゴロいうの初めてじゃないか!?
普段だったらゴロゴロなんて言わずにシャーッて威嚇したり、無言で噛みついたりするのに……!
これは……もしかしたら喉を撫でても怒らない?
寝ぼけてて警戒緩んでるのだろうか?やるなら今しかねえ!
「…………おぉ、噛まない」
ほっぺたつんつんして噛まれて以来、頬より下に手を持っていくと問答無用で噛まれてたんだけど……やばい、嬉しくて泣きそう。
喉を指で撫でると気持ちいいのかゴロゴロという音も大きくなる。
いやあ、なんか顔がにやけて仕方ないぞ!
このままずっと撫でていたい…………あれ? 音が止んだ……ぞ。
……さすがに撫ですぎたのだろうか、タマさんばっちり目を覚ましたようでして、まん丸なお目々でこっちを見てるの。こわい。
「……や、やあタマさんおはよぉぉおあ゛あ゛あ゛だだだだっ!?」
噛んで、前足で抑えて、猫キック。
フルコンボだぜ。嬉しいけどめちゃくそ痛いんっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます