第51話 「50話」

倒しても倒しても敵がどんどんこちらに向かってくる。

それ自体は大歓迎ではあるが、さすがに戦いっぱなしだと疲れてくる。


オーガより強い分疲労のたまり具合が違うんだろうね。



「さすがに疲れてきたなあ……あの、タマさんあれは何?」


穴に入ってから結構進んだ辺りで一瞬敵が途切れたなと一息ついたんだけど、ふと遠目に今まで戦っていた八ツ目とは明らかに違うシルエットが見えた。


新しい敵なのは間違いないだろう、俺はタマさんに声を掛けた。


「ニャー……面倒いのがいるニャア。 あれもオーガの亜種で三つ首って呼ばれてるニャ」


「三つ首……?」


タマさんでも面倒いとな……?

てか三つ首って、見た感じ首は一つしかなさそうだけど……ただ、ちょっと特徴的なシルエットではある。

1体は右腕が、もう1体は左腕、最後の1体は下半身が異様にでかい。


……もしかして?


「あいつは3体で1体ニャ。 同時にダメージ与えたりしないとすぐ治っちゃうニャ。面倒い奴ニャー」


「え、どうやって倒すの……?」


やっぱそう言うことかい。

同時にダメージ与えないと倒せないとか、俺どうやって倒せばいいの……。


「一気に消し飛ばすニャ」


「おお、じゃあ一気に――」


タマさん、どうやら俺にあいつの相手をさせる気はないらしい。

俺だと無理ゲーぽいけど、タマさんならいくらでもやりようがあるはずである。


んで、そう言うことなら一気にやっちゃってください、そう言いかけたんだけど……。


「でもウッドも一緒に消し飛ぶニャ」


「――別の方法でお願い致します」


やめてください、死んでしまいます。

わりと本気で。


思わずタマさんに真顔で突っ込む俺であった。



「少し広いところで地道に削るニャ。 ウッドはここで待ってるといい、危なくなったら助けにくるニャー」


「え、まじ? 早めに戻ってきてねー!?」


一気に吹き飛ばすのが無しとなると、地道に削ることになる……それでも多分範囲魔法使うんだろうね、弱めの奴。

んで近いと俺も巻き込んじゃうからってことで、タマさん三つ首を引き連れてぴゅーっと遠くに行ってしまったのだ。


危なくなったら助けに来てくれるそうだけどー……。


「やばい超心細いんですけど」


心細いなんてもんじゃない。

何気にダンジョンで一人になるの初めてじゃない? タマさーん!早く帰ってきてくれー!




そんな心細い思いをしていた俺に会いに来てくれる奴がいた。

八ツ目です。ははは。


……タマさんが居なくなってから結構な時間が経った。その間にきた八ツ目は50体近いと思う。


「タマさん遅いな……てかだんだん萎んできたなあ。そろそろ吸わないと――」


俺の体も徐々に萎んできていて八ツ目の相手をするのが段々しんどくなってきた。

ってわけでそろそろ補給タイムを、と思ったんだけど。


「――ここ吸えないねえっ!?」


やばい。

ここ床が土じゃないじゃん!

石板からはさすが吸えないデスヨ!?


「やばいやばいやばい。ここで強いのきたら……はっ」


危ない、フラグを立てるところだった……気付いた俺ぐっじょぶ。

いや、だが油断は出来ない、こう一瞬安心したところに強敵がくる……それもお決まりのパターンの一つだ。


「……んなわけないか」


まあ、何も来なかった訳だけど。




で……気のせいかーと息を吐いたそのときであった。


「ガチャ?」


遠くから金属音ぽいのが聞こえたのである。

立った、フラグが立った! 嬉しくないぞ!!


「うっそ……まじできたよ」


現れたのは八ツ目の装備持ちであった。

全身をごっつい甲冑で覆われたその姿はかなり迫力がある。

正直ちょっと逃げ出したい。


でも逃げ出した先で敵に挟まれるのもパターンだよね……ってことで俺はそのままやり合うことにした。


でもその前に。


「タマさーん! 早く戻ってきてー!?」


タマさんにピンチであることを伝えておく。

一応声が届く範囲には居るようで後ろから小さくニャーンと鳴く声が聞こえた。


「……やってやりますよ」


タマさんが割と近くに居ることは分かった。

俺は盾を構えてじりじりと八ツ目へと近寄っていく。

蔦は隠しておく、一気に出して警戒してないところを攻めたいからね。


まずは数手打ち合ってみてと……。



八ツ目の射程にはいった俺に向けて拳が振り下ろされた。

拳はごっつい手甲をつけているのでなるべく盾で受け流すようにする。


殴る速度は通常の八ツ目と変わらないようだけど威力は大分上だ。質量増えたのに速度変わってないってことだろうし、やっぱ通常のより強いっぽい。

そして何か盾から鈍い音がしたような気がしなくもない。

やめておくれよぉ。


盾が壊れちゃかなわん。と言うことで攻めに回りますよっと。

この時のために蔓を隠しておいたのだ。


俺は八ツ目の拳をいなすと同時に蔦を絡め思いっきり引いた。

すると八ツ目は良い感じに前屈みになり……がら空きになった頭部を金棒でぶん殴る。


今度は本当に弾かれた。


「ぐっ……鎧が邪魔すぎる」


こいつ首から顔の下半分にかけても甲冑で覆われてるんだよね……なもんで殴ってもあまり効果はなかったらしい、すぐに殴り返してきたほどだ。


耳に蔦を突っ込もうかとも思ったけど、耳も覆ってるんだよね、これが。


……そんなわけで俺はごり押しすることにしたのである。



「こんにゃろめっ! いい加減倒れろってーのっ!」


甲冑の上からガッツンガッツン殴りまくる。

中々致命傷にはならないが衝撃は一応伝わるのでダメージは蓄積していく。

八ツ目は大分ふらふらになってはいるが……もうちょい掛かりそうな雰囲気である。




……実はごり押しは失敗だったかなと考え始めてる。

倒せそうなのは良いんだけどこっちの消耗がちと激しい。


蔦で体勢を崩すのも難しくなってきているし、大分補正が下がって八ツ目と大差なくなってるぽい。


なのでやり方を変える。

まだこっちが優位な内に関節技に持っていくことにしたのだ。

甲冑つけてようが首を折ってしまえばいいのです。



それじゃ……まずは足かな。


八ツ目の片足……足首あたりに蔦を絡ませ手前に引っ張る。

すると八ツ目の脚がぴーんと伸びきるので……がら空きとなった膝目がけて俺は思いっきり脚を踏み抜いたのである。


「足もらったあああ!」


思ったより軽い音を立てて八ツ目の膝が逆方向に折れ曲がる。

そして八ツ目は悲鳴を上げ地面に倒れ込んだ。


俺はその隙を逃さず八ツ目の上に跨がると両腕と残った片足を蔦で拘束。

そして、余った両手、それに蔦を顔に伸ばし……思いっきり捻った。


首が背中へと向いた八ツ目はもう動くことは無かった。


「ぜぇーはぁー……し、死ぬ。マジできつい……」


かなり疲れた。

消耗が激しすぎる。


「でも何とかなった……あとはタマさんが戻ってくるまで耐えれば――」


何とかなる。

そう思ったのがいけなかったのだろうか。


「――ガチャ?」


再び聞こえる金属音。


どうやら俺は連続でフラグを立ててしまったらしい……。

やめてくだされ。

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