第50話 「49話」


「ねえ、タマさんや。 あれ何かな」


地面にぽっかりと空いた穴、ぱっと見はショートカットの穴と同じように見えるが……だとしたら茂みに埋もれっぱなしなのはおかしい気がする。

ショートカットはダンジョンシーカーが頻繁に使用するのである程度整理されているのが普通である。


この穴はどう見ても人の手が入っているようには見えない……てことはショートカットではないとなるんだけど。

じゃあ何?と言われると俺にはさっぱり分からない訳で。


まあ、ここはタマさんに聞くしかないよね、と。


「ニャ? ……穴ニャー」


「それは見たら分かるんだけどー……」


俺そこまで馬鹿じゃないデスヨ?


「冗談ニャ。 たぶん別の階層にいくショートカットか、たまにダンジョンに出来る小部屋ニャ」


ははは、タマさんめ。


しかしダンジョンに出来る小部屋ねえ……最初からあるものなのか、それとも後から出来るのか。どっちだろうね?


ダンジョンにはまだまだ知らないことがいっぱいである。


「ほうほう? 小部屋って何があるのかな?」


お宝いっぱいだと嬉しいです。


「モンスターが詰まってたり、宝箱があったりするニャー」


「宝箱!? え、そんなのあるの……今まで見たこと無いんだけど」


まじか。

まじで宝箱なんてあるのか。

あれか、小部屋って某ダンジョンゲームのモンスターハウスみたいな感じなのだろうか?


てか俺結構な数のモンスター狩ってるけど宝箱なんて見たことない……いや、数は関係ないのかな。そもそもゲームみたいに倒したモンスターが何かドロップするような仕様じゃないしね。


となるとダンジョン側があらかじめ用意してくれたってことだけど、何のために……ダンジョンシーカー呼び寄せるための撒き餌かな。


モンスターいっぱいと分かってても宝箱あると思えば突っ込む人は結構いるだろうし。


かくいう俺もかなり惹かれていたりする。

宝箱一回開けてみたかったんだよね……。


「滅多に見つかるもんじゃないニャー。 でも小部屋には高確率であるニャ。とは言っても大抵は誰かに取られてて無いんだけどニャ。復活するまで時間掛かるし……ニャ?」


「ニャ? へふっ!?」


まねしたら尻尾ではたかれましたわよ。


いや、首を傾げる様子が可愛かったもんでついね……てかタマさんどうしたのかな?


「ここにこんな穴があるなんて知らないニャ。 新しいかもニャー」


「え、うそ。本当にっ?」


まじか。

もしかして未踏破な領域だったりする?

ってことは……。


「ニャ。 行くかニャー?」


「行く行く。絶対行くっ」


宝箱があるかも知れない!

そりゃ行くしかないよね、俺一人だったら躊躇するけど幸いこっちにはレベル90オーバーのタマさんがいるんだ。行かないという選択肢はないよね。


「ニャ。 お腹落ち着いたら行くニャー」


お腹たぷたぷだもんね。

よっし休憩終わったら行くどー!




うっかり昼寝してしまった……。


少しの休憩のつもりが時刻はすでに昼を回っているだろう。

幸い小部屋自体は詳しく調べるのでなければ2~3時間で全部見てまわることが出来るとタマさんがいっていた。


帰りの草刈りをやれないかも知れないが、とりあえず見て回ろうと俺とタマさんは穴へと足を踏み入れるのであった。



「たぶん小部屋ニャー」


穴に入って少し行ったところでそうタマさん言う。


「そうなの?」


「坂が急じゃないニャ」


「あ、そかそか」


確かに、ショートカットって急な滑り台みたいなものだったからね。多少下り坂ではあるもの普通に歩けるし、ここはショートカットじゃないと言うことになる……のかな?


でもたぶんって言ってたからまだ確定ではないのだろうね。

俺が知らないだけで緩い坂道のショートカットが存在する可能性だってあるんだし。


とかなんとか考えながら歩いていると、曲がり角を曲がったところでふいに雰囲気がガラリと変わった。


「……なんか雰囲気違うね。足もとも……なんだろこれ、石板かな?」


さっきまで足もとは土だったのに、今は石畳というか石板が敷き詰められている感じである。壁も同じ感じだ。


「ニャー……小部屋にしてはちょっと変ニャ。 普通は壁とか変わらないニャー」


「あら、そうなんだ……」


タマさんも違和感を覚えたようでキョロキョロと興味深そうにあたりを見渡している。


「ってことは――」


ショートカットしたときの新しい階層に移ったときのような雰囲気。

もしかすると小部屋ではなく……と言いかけたとき、急にタマさんが顔を通路の先へと向けた。


「何かきたニャー」


「――ここってショート……なぬ?」


何かきたってことはモンスターが来たって事だよね。

とりあえず武器と盾を構えてっと……あれはオーガ?


「ん……ん? オーガ……じゃないね」


「八ツ目って呼ばれてるオーガの亜種ニャ。 本当はもう少し下の階層にでるんだけどニャー」


オーガかなと一瞬思ったけど、亜種だったらしい。

背格好は大体同じだけど、特徴的なのはその頭部だろう。

上半分が昆虫を思わせる甲殻に覆われており、額からは斜め上に向けてねじれたドリルのような角が生えており、そしてガラス玉をはめ込んだような瞳が8つある。

ちょっと怖い。


「つ、強いかな?」


「今のウッドなら余裕ニャ」


見た目にびびる俺であったが、タマさん曰く余裕であるとのこと……やったろうじゃないの。

タマさん、俺の格好良いところ見ててねっ!



っと勢いよく八ツ目に突っ込んだ俺だけど、そんな俺の顔面目がけて拳がカウンター気味に伸びてきた。


「あっぶな!」


なんとか避けはしたけど……まっすぐ突っ込んだのはさすがに迂闊だったと思う。慎重にいこう慎重に、油断大敵ですよ。



「っと、よっと……オーガを、全体的に、強化した感じ、だねっ」


落ち着いてみれば八ツ目の攻撃は難なく捌くことが出来た。

オーガより早くて力も強そう、たぶんタフさもあるだろうし結構な強敵だとは思う。


でもオーガ4体同時に相手できるようになった俺にとっては苦戦するほどでも無かったりする。


1体なら蔦も不要だろうけど、通じるかは試したいので使ってみよう。


「んんっ!? 頭かったい!」


八ツ目の腕を蔦で引き、同時に足もとも掬う。

上手い具合に体勢を崩してくれたので頭に金棒を叩き込んだわけだけど……ガキンッて音がして少し弾かれてしまった。

頭部を見ればヒビが広がっていたけど、致命傷には至ってないようでまだまだ元気である。


「目も硬い……ならここだっ」


んで、それならばと蔦で目を抉ろうとしたんだけど……これがまた硬い。

んで最終的にはがら空きだった耳に向けて蔦を伸ばしてグサッとやってシェイクした。


さすがに耳まで硬くはなく、八ツ目はビクリと身を震わせるとそのまま体を弛緩させた。


「うっし、いけるいける」


「どんどん狩るニャー」


タマさんに言われて通路の奥を見ればこちらへと向かってきている八ツ目の姿がいくつも見えた。

ここが小部屋だったのかは分からないけど、モンスターが詰まってたのは確からしい。


囲まれる前に仕留めないと……そう思い、俺は再び武器を構えるのであった。

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