第17話 殺人と自殺
清川が鈍く光る包丁を布団の中へ引き込んだのは、紅いネックレスが彼女の首から稲宮の首に渡って数分後だ。
常夜灯の光が部屋をぼんやりと橙色にしている。
稲宮は下で煌めく清川の瞳を見つめながら、もうすぐ自分が果てに着くことと、足の方からひんやりとした鉄が上がってくることを感じていた。
「……この快楽は……脳に刻まれる……」
清川がそう言ったのと、稲宮が彼女の兆しを知ったのは同時だ。
刃物が稲宮の命とネックレスの紐をすっぱりと斬る。
彼の上は紅い死を虚無へ、彼の下は白い生を清川へ吐き出す。
力の抜けた稲宮は彼女に倒れ込み、散らばった紅い宝石をかすむ視界に捉えていた。そこには彼の紅い死がべったりとしている。
彼の皮膚が、清川の方から温かい死が飛んできたのを感じた。
その死は散らばった紅い舞台の上で、稲宮の死と混ざり合う。
「やっぱり綺麗な手ね……」
そんな声が稲宮の耳に入り、あたたかい幸福が彼の左手に広がる
「僕らの炎よ、肉体と罪を焼いてくれ」
稲宮の脳はそう思考して、彼の瞼は眼球を覆った。
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