正義のヒーロー
彼は
とある日の朝、彼がいつものように電車で会社に行くと、ビルが跡形もなく焼け焦げていた。どうやら爆発したらしい。銀色の光っていた柱は黒焦げていて、今にも頂上から崩落しそうな無残さであった。消火が追い付いていないのか、ところどころに炎が垣間見えて、勢いが収束する気配を見せることはなかった。
「これはまいったなあ」
彼はそう
「UFOだ!」
誰かが叫んだ。彼もそうだと頷く。確かに、あの円盤型をした飛行物体はUFOに違いない。どうやら、こっちにやってくるようだ。
ガラガラガラ、とビルの雪崩がはじまった。高々と掲げていた証券会社の看板が地面に落ち、ものすごい量のチリとホコリが舞い上がって、彼も思わず口をふさいだ。その跡地にUFOはゆっくりと着陸した。そして扉が開いたかと思うと、なんとイカ型の宇宙人が姿を現した。近くにいた若い女性が「きゃっ」と短い悲鳴を上げてどこかへ消えていく。頭でっかちで体がとても細く目はでかい。見事なまでの地球外生命体といったところだろう。
彼はコミュニケーションを取ろうとした。
「こんにちは」
しかし返事はない。おっと、これは失敬。配慮が足りなかったようだ。
「ヘイ、ガイズ。マイネームイズアソウタロウ。アイアムハエンペラーディスプラネット」
すると、五体で固まっている宇宙人の中から、リーダー格と思われる一体が奇妙な声を出した。
「ケロロポルン。ブロロドロール」
「え? え?」
「ドロロガラン。ブロットマットル」
「ちょ、ちょっと分かんないよ」
「バロロボロン。ドルロブゴン」
「え~日本語でしゃべってよ~」
「ボウ? ケポロ! ブロロスロードン! ボロロゴログルン、ケロードポロン。ドロポルンホルンパックン」
「ちっ、埒あかねえな……」
彼はポケットに突っ込んであったピストルを取り出し、バンバンバン、と発砲した。途端、撃たれた宇宙人はぐたりと倒れこみ、液状のような形になる。クリーンヒットしたみたいだ。
その瞬間、けたたましいサイレン音がUFOの中から響いてきた。それを合図として、ワラワラワラと大量の宇宙人が出動してきた。表情は分からないが、体からぷしゅぷしゅと噴射する煙からとても怒っているんだと知ることができた。
「ケロロバット! キルパット!」
うおっと、襲いにかかるイカ型宇宙人。彼はカバンからロケットランチャーを取り出し、応戦した。
「おらああああああああ!」
刹那、どでかい発砲の威力と宇宙人の衝突から一閃の光が灯ったと思うと、大きな音とともに地面が割れ、爆風が巻き起こった。彼の体は宙に浮き、いとも簡単に吹き飛ばされていった。
「あああああああああああああああ」
爆風の威力はすさまじかった。彼は遥か彼方に飛ばされた。ビルを超えた。空を超えた。飛行機とすれ違った。大気圏をも超えて、宇宙空間に飛び出し、月の周りをぐるりと一周して地球に帰っていった。けたたましいスピードだった。
「あ、あれは……?」
見えてきたのは、国会議事堂だ。彼は天井から真っ逆さまに突入した。ちょうどそこには、昭惠さんがいた。
「これは昭惠さん、こんにちは。ところで、総理にはもうチョコレートはあげましたか? はい、これ月の岩石で作ったチョコレートです。どうぞ、これを渡してください」
「で、でも、あの人がちゃんと受け取ってくれるかどうか私心配だわ」
「そんな思い悩む必要はないですよ」
「おい昭惠。どうした」
「あ、あのあなた……これをあげるわ」
「ん? これはチョコレートじゃないか! まさか、お前がそんなことをしてくれるなんてな……」
「へ、変かしら……」
「いや、嬉しいよ。ありがとう」
「い、いえ……」
夫婦仲は元に戻った。それどころか、前以上に仲睦まじくなった。総理は夫婦に優しい法律をたくさん施行するようになり、日本に子供が増えだした。少子化問題は解決した。めでだしめでだし。
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