一ミリも芥川龍之介を読んだことのない人間が、「蜘蛛の糸」を書評してみた。
著:西川大介(書評家)
皆さんは、一度はこう思ったことはあるのではないか。
「あいつさえいなければな」
「あの男さえ消えれば、俺は一位になれるのにな」
人間が持つ欲望の一環として、向上心がある。上へ上へと階段を駆け上がっていくようなものだ。
いうならば、我々は一生を通して見えないゴールに向かってずっと階段を上がっていくようなものかもしれない。後ろを振り返れば、「魔物」がいる。襲われたら最後、リスタートは認められない。だから、人は死に物狂いになる。
ライバルが「魔物」に食われていくのを横目に見ながら、あなたは進んでいく。息を切らせ、足をもたつかせながらも、なんとか歩を進めなければならない。死にたくない。生き残りたい。その目的のためには、隣で走っている奴らを突き落とすのも
人は誰かを蹴落とし、蹴落とされ、そして這い上がっていく。それは一見、「努力」という美麗字句によって賢い選択であると考えるかもしれない。しかし、上には下がある。果たして、下にいる者を一度でも振り返ったことがあるだろうか? 気にかけたことはあるだろうか?
芥川は人間の奥底にある動物的本質を突き、凶悪さ残忍さ冷酷さ性格の悪さ意地の悪さ気色の悪さを冷静に見ている。「蜘蛛の糸」の中で、
「タケシ! あんた買い物のおつりごまかしたでしょ! お母さん全部知っているんだからね」
「うるせえ、ババア! きゅうり鼻にぶっさすぞごるぁ!」
というようなシーンがあるが、まさに今の時代にも通じる子供の無邪気さあどけなさをしっかりと観察しているといえよう。
主人公高田の成長物語を描いた今作品は、幼少期青年期結婚夜逃げ自殺輪廻転生からの再婚するまでを事細かに描写し、世間では高い評価を受けている。かの文豪・石川啄木は、
「とても素晴らしく、おいしい作品です」
としっかり一日三食摂っていたそう。面白いね。
あなたも実体験があるだろう。高田のように、どうしても周りを気にしてしまうことを。リア友と繋がっているアカウントでは
「ちょー、わかるー。マジうけるー」
「草生えるー。生やしすぎて地球温暖化撲滅不可避ー」
と媚びを売っているが、ひとたび裏アカウントへ姿を移せば、
「なんだあの野郎――死ね! キモい! 染色体からやり直せ!」
とただのツイ廃民へと様変わりする。
「だから彼は危ない奴だって、あたし注意したよね、美奈子? ほーら、やっぱりあたしの言ったとおりだった。絶対あんたとは破局するって。付き合ってまだ二日も経ってないのよ? 学生の恋愛じゃあるまいし」
「えぇ、えぇ、でも彼は私の前ではすっごい優しいんだよ。料理をいつも奢ってくれるし、口臭くないし」
「ダメダメ、外っ面が良くても内面がゴミ! クズ! ハウスダスト! そんな男なんかすぐ別れちゃいなさい! あんたも飲み込まれて、戻れなくなっちゃうわよ」
「……うん、そうする……」
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