キャント・バイア・ショートショーティング

蓮見 悠都

こんにちは、Gちゃん。




 やあこんにちは、僕はG! 在籍は動物界節足動物門昆虫網ゴ×××目。職業はエンターテイナー。いつもヒト科ヒト属の生物たちをドッキリに掛からせているよ。みんなものすごく驚いてくれるからとても嬉しい! まあ、大方生きて帰ってこれないけどね。まるでゼロ戦みたい! ハハハ。


 え? 本名を教えろだって? no-no. ここで正式名称を出すと女方諸君からの強烈な悲鳴を浴びせられてしまう羽目になってしまう。だから極力コードネームでよろしくたのむよ。常に黒いスーツを羽織っている紳士だからね、僕は。淑女に不快感を与えてオーガニズムを放出するほどのこくな人間じゃあないさ。


 僕たちのすごいところはなんといっても、その生命力! 石器時代にマンモスとの生死を賭けた格闘の跡が群馬県に残っているんだけど、そのくらい昔からこの地球に存在しつづけているんだよね。また、Gの絶滅は地球滅亡を意味するともいわれているんだよ。しつこく粘りっこく這いつくばって生きている姿はなんて美しいものでしょう。生命の神秘だね。


 あとは動きの素早さといったら、昆虫界随一じゃないのかな。これまで数千年と人間たちに殺されてきた先祖の犠牲を無下にすることなく、我々は反省の念を唱え、これ以上もない瞬発力を身に着けたのさ。


 当然、これにはあらゆる努力と知能の結晶が必要になってくるよ。僕たちの場合は、週に四回、空き家の壁をよじ登るスピードを争う徒競走大会を実施しているんだ! 練習は大事だよー。そうね、一回大体100匹ぐらい集まるかな。もし扉を開いた者がいたら、その場で倒れて救急搬送間違いなしだね。テレビカメラが入るときは、モザイクをかけることをお勧めするかな。


 これだけでなく、毎年4月には全世界のGたちを南米のアマゾンに集結させる『G7―ゴ×××神聖国七福神祭り』が開かれていてね、最新の殺虫剤の情報と対策や食料輸出入の交渉を行ったりしているよ。その日の一週間前後はもう大量のGたちが押し寄せるから大変大変。アマゾンの半分ぐらいを黒光りで埋め尽くせるよ。だからまあ、そこの地域の先住民が見当たらないのは察してください。世の中には知らなくてもいいことがあるってこと。


 このようして、Gたちは日々進化をして知性とパワーを獲得しているのさ。おかげで、世の奥様方が放つ最終奥義・丸めた新聞紙のラストブレッドソードを54%の確率で避けれるようになったのだよ。すごくない?


 え? お前気持ち悪いから死んでも誰も悲しまないだって? おいおい、至極のエンターテイナーを前にしてなんたる評価をするんだい。確かに僕らは人気という面では他より劣っているだろうね。それは認めるよ。アゲハ蝶さんやテントウムシ君はかわいいし、カブトムシに関しては、もう菅田将暉さ。ああ、そうだよ。渋谷で菅田将暉が歩いていれば、JKが歓喜の声を上げてスマホを取り出し、カメラをパシャパシャやるだろう? カブトムシがそこらへんの樹木にいるようなものなら我先にと捕まえようとする。それと同じさ。

 

 でもね諸君、よく想像してほしいんだ。カブトムシとGはツノ以外の面では似てるだろ。逆に、ツノさえ付ければGもカブトムシになれるのさ。つまり、二人はさほど変わりはしない。菅田将暉は確かにかっこいい。でも、杉村太蔵が若返ったらそれはもう菅田将暉だ。イコールだ。それと同じさ。


 なに? 君も僕たちの仲間に入りたいだって? いやあ、もちろん嬉しいが、覚悟がなければGとして生き延びるのは大変だぜ。まず、人間界に溶け込むことは不可能だ。キモがられるからね。少しでも隙を見せたら、踏みつぶされてあの世行きさ。


 だからといって、自然界で生きられるとは保証できないよ。クワガタとかカマキリみたいなイキリ陽キャに樹液を奪われることも多々あるし、つくれる友達はカメムシ野郎しかいない。いつも臭いからねぇ、彼は。いつも教室のはじっこに追いやられて周りの連中から嘲笑と辱めを受けることになるけどそれでもいいの? うん? みじめだよぉ。あ、ちなみに君が長年片思いしていたモンシロ蝶ちゃんはすでに国際結婚したから。そう、コーカサスオオカブト君と。残念だったね!


 大丈夫。そう気になさらんな。僕たちの最終目標が地球征服なことを忘れていないかい? 何十年後、いや何百年後にいつかこの夢が叶えられるために、日々人間たちと抗争を繰り広げているだろう。そして、Gの仲間が火星から人型として帰ってきて地球に猛攻を仕掛ける日が来ることを……。






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