崩れた法則性




『また、殺人事件です。本日、埼玉県の北楢きたなら市にて20代の女性がナイフのようなもので刺されているのが見つかり、そのまま死亡しました。警察は、同市で三か月前から発生している連続殺人事件として捜査しています。犯人は赤いジャンパーに黒いスニーカーという服装をし、20代の女性を狙う共通の特徴があるということで、情報提供を求めています――』


 ピンポーン、となだらかな音が自身の部屋に鳴った。僕は新聞の社会面を折りたたみ、テレビを消して玄関に向かう。


「誰だろ……」


 そう呟きながら、玄関の扉を開いた。


「えっ……」


「よぉ、タカシ。ちょっと入れさせてくれ」


「えっ、ちょっとま……」


 制止するまもなく、ダイスケが入っていった。しかし、それはダイスケだとは一目で分からなかった。いや、信じたくなかったのかもしれない。


 ふぅーと、僕のソファーに腰下すダイスケは赤いジャンパーに、黒のスニーカーという恰好だった。


「おい、まさか……」


「なぁ、ちょっと金貸してくんね」


「え? なんでいきなり」


「必要なんだよ。なぁ、友達のよしみだろ」


「友達って、もう何年も会ってないじゃないか


「つべこべいわずにさぁ。どこに金あんのか。ここか。ここか?」


 ダイスケはそういいながら、部屋を精査する。座布団の上を覗いたり、ソファーの下を確認したり。やがて、窓側のクローゼットに近づいた。


「あ、そこは――」僕は叫んだ。


「へっ。ここだな。よいしょっと」


クローゼットを開け放った瞬間、ダイスケが不思議そうな顔をした。


「あれ? 赤いジャンパーと黒いスニーカー……」


 僕は持っていたハンマーで、彼の頭を叩いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る