<一緒に水族館>⑦

 日曜日――水族館にて


 マグロの水槽を後にしても、頭はやや寿司や刺身のことを考えつつあった。

 それからいくつかの水槽を眺めて歩き、今は大きな海藻が生えている水槽の前にいる。岩に囲まれた水槽の底からは、3メートルを優に超えていそうな巨大な海藻が水面に届いて余るほど伸びていて、その周りを魚がゆったり泳いでいる。

 今までの水槽からするとやや地味ではあるが、見ていて落ち着く。


「でっかいね。昆布かな」

「コンブ科なので正解です。これはオオウキモ、またはジャイアントケルプと言います。米村が読んだ本には何十メートルも大きくなると書いてあったのです」


 見上げて言うと、米村が隣で教えてくれる。既に十分すぎるほど大きいと思うんだけど……まだまだ大きくなれるらしい。

 続けて米村が言う。


「米村、ここが好きかもしれません」

「あれ……意外だね。もっと魚でいっぱいのがいいと思ってたけど」


 米村は今まで魚に夢中だったのもあり、何だか意外だった。

 この水槽は今までのとは違い、小さくて賑やかに動き回る魚もいないし、大きくてズンズン泳いで進む魚もいない。

 少し間をおいて米村が答える。


「えーっと、そうですね。米村にはとても素敵なように見えますよ。大きな植物と、小さなお魚が一緒にゆったり暮らしているのが。えっと……種類は違うのですが」

 大きなものと小さなもの、妖精らしい視点のように思える。人間も損得は大きさで考えるけれど、そういうことじゃない。

「なるほど、そうだね。あの葉っぱみたいなところで一緒に揺れてる魚も、よく見たらヒレを動かしてそこから動かないようにしてる。でも自然で当たり前って感じだ」


 こう思えるのは米村みたいに魚のヒレを見るようになったからだろうか。

 そう思っていたとき、首の片側にぺったりした感触があった。肩に座っていた米村が私の首を抱えるようにくっついている。首にある太い脈の上に密着されているせいだろうか、自分が脈打ってるのが跳ね返って感じる。

 米村はちょっと疲れたのかもしれない。続けて水槽を見たせいだろう。


「ちょっと休憩してもいいかな」

「はい」


 屋外の座れるところで少し休憩している間も、米村はずっと首にぺったりとくっついていてあまり話さなかったけど、休憩を終えてペンギンがいるエリアを見るころには、米村は再び元気になっていた。そうだね。ペンギンは良い。私が普段よく見るカラスやハトとは形が違うのもあるが、何より飛んできて驚かせたりしないから!

 それから最後にギフトショップへ寄った。


「な、なんだこれは」

「大きいのです……!」


 米村の倍以上はある大きさのマグロのぬいぐるみを見つけた。この胸を打つ衝撃を無視できるわけはない。それは米村も同じだろう。

 というわけで、食べることはできないがマグロを二本買った。一本は私と米村のマグロで、もう一本はミコッチとパスタちゃんのマグロ。お土産だ。

 興奮気味に米村が言った。


「お家を水槽のようにできるのです」

「じゃあ、ヒレを生やさないと」


 私はまだヒレ生えてないけど、一緒の水槽に帰ることにした。

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