<一緒に水族館>⑥
日曜日――水族館にて
イワシとサメの水槽を後にした。
魚が動く様子は思っていたより見ていて楽しかったが、やっぱりちょっとだけおいしそうだなと思ってしまったのは米村には秘密だ。
館内を進むと、また広い空間に出る。
「なんてこった」
「す、すごいです」
青く巨大な水槽を、一直線に泳ぐ丸くて大きな魚。薄暗い照明のこちら側から見ていると、海の底から海中を眺めているような、そんな気持ちになる。ダイビングの経験はないが、きっとこんな感じ……なのかもしれない。
「マグロですね」
「おいしそう」
ついに言ってしまった。だってマグロだもの。力強くまっすぐに泳ぐマグロが水槽一杯に泳いでいる様子からは自然の雄大さを感じる。
しかし食べても素晴らしいのだろう。米村のじっとりとした視線を感じるが、気づかないふりをする。
「あのマグロの種類、米村知ってるかな」
「はい。あれはクロマグロといい、本マグロとも呼ばれます。――あ」
しっかり情報を教えてくれた直後、米村は口を滑らせてしまったかのように黙ってしまった。
ホンマグロ・オイシイ。子供の頃から聞かされていた言葉は、やっぱり今でも思い出せるし、その正しさは経験上確かなものとなっている。
そんなオイシイ想像を隠すように言う。
「すごい、近くまで泳いできた」
「わーお」
マグロが目の前を通り過ぎる。
デカい。私よりデカいのではないだろうか。デカいと言えば私より色々とデカいミコッチだが、大きな海と魚の前では同じようなものだろう。オナジオナジ。自然は素晴らしい。やはり自然はこうでなくてはならない。
それより米村は、自身よりはるかに大きいマグロをどう思っているのだろう。私でも巨大な水槽でマグロがズンズン泳いでいる迫力から、世界の質量に対しての自分の小ささのようなものを感じている。
「結構大きいけど、米村怖くないの」
「一生懸命で、カッコいいのです」
「ほう、そっか」
小さな妖精ならではの感想なのだろうか。
では、私はどうだろう。私にとって大きなものとは。それは一生懸命だろうか、カッコいいだろうか、それとも可愛らしいだろうか。
目の前を通り過ぎるマグロを眺めながら想う。
「やっぱりおいしそうかなあ」
「米村のライバルということですね」
ちょっと勇んだ米村と、またしばらく水槽を眺めた。
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