<一緒に水族館>⑤

 日曜日――水族館にて


 今日は米村との約束で一緒に水族館へ来ている。

 水族館に来たのは何年ぶりだっただろうか。魚と聞けば、まず切り身か焼いたもののイメージが浮かんでしまうような私であれば、一人で足を運ぶことがないのも納得できる。


 ――おや。


 視界の外で、米村が小さく笑った。

 もはや冬の定番お出かけスタイルとなりつつある、私の肩に座り一緒のマフラーから顔を出している米村は、なんだか嬉しそうだ。たまに何か独り言を言っているのも聞こえる。小柄な妖精といえど20㎝弱あるため、座った米村の頭の位置は私の耳に近い状態となる。

 さっそく色々見て回るため、館内を進んでいく。

 館内はやや暗めの照明が独特の空気感を作っているが、落ち着いた雰囲気があり、そんな中を歩くうち気持ちが穏やかになるような気がする。

 そんなことを考えていたとき、広い空間に出た。


「『おー』」


 思ったよりも早く大きな水槽が目に映り、少し驚いた。一緒に驚いたらしい米村がどんな表情をしているのかは見ることができないが、きっとそこにある水槽のように穏やかな光を放っている。そんな気がした。


「もうちょっと近づいてみましょう」

「うん」


 はやるような米村の声に、手を引かれている気持ちになる。

 水槽の大きさのせいだろうか。見慣れたパソコンのディスプレイやテレビの比ではない迫力が、近づいていくほど強くなる。


「すごいね。小さいのとか大きいのがたくさんだ」

「はい。あそこの群れはイワシで、それからあれはサメなのです」


 水槽の中には銀の小さな魚の群れが一つの塊のように動いたり、魚よりひと際大きなサメがゆったりと泳いだりしていた。

 米村のことだから、詳細な魚の種類も既に調べているのだろう。私にわかりやすいようにしてくれているのかもしれない。流石の私でもサメはわかるが、イワシとなると他の青魚との見分けに自信がない。


「あそこにサメが近寄ってきています」

「行ってみよう」


 それからしばらくこの水槽の前で魚を眺めた。

 魚のヒレが動くたび楽しそうにする米村が隣にいたからだろうか、水族館に来たのが初めてだと感じるほどすべてが新鮮だった。

 そして水槽にいる魚のヒレの隅々まで見終えたころ、次の水槽へ向かう。

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