【おにぎり】

【おにぎり】

<春はどこに?>

 人間の〈みこっち〉、妖精の〈パスタちゃん〉と〈うどんさん〉が遊びに来ている。昼食に手巻き寿司を作って食べた後はだらだらしていたのだが、いつの間にか夕飯の時間になっていたのである。

 夢の中でよくわからないあらすじを説明していると目が覚めた。


「お、戻ってきたね。そろそろ夕飯のこと聞いてもいいかな」

「ふぃー、さっぱりした! もう、せっかちなんだからぁ」


 みこっちはサラサラの毛先を指で遊ばせ火照った体をモジモジさせている。


「まったく、こっちは眠りかけてたっていうのに調子がいいな。……季節が移ろう夢を見てしまった」

「どゆこと……? まあ、ではそろそろ教えてあげよう、知将みこちんの素晴らしいアイデアを!」

「うん」とだけ返事をして先を促す。

「なんと、なななんと、今晩はおにぎりを作ります!」両手で丸い形を作っている。

「おおー。それでご飯炊いたのね。いいんじゃないかな。この際贅沢は言えないからね」

「ちっちっち。ただの塩むすびじゃあないんだぜ、お嬢さん」

「誰がお嬢さんだよ。で、どんなおにぎりなの?」

「今日の手巻き寿司で余ったものってなーんだ?」

「いやいや、具材は全部みこっち食べちゃったじゃないか」

「いいえ、具材ではありません。答えは海苔です! 海苔でおにぎりを贅沢仕様にします!」

「いいね。それだけで風味も変わってちょっと贅沢って感じするよね。でもよかった。『具材は愛です』とか言い出すんじゃないかってどこかで思ってたからさ」

「愛はね、アタシというおにぎりに詰まっているのよ」

「——さて作るか」

「ちょっとは味わってよ!」

「はいはい」台所へ向かう途中でみこっちの肩をポンと叩いた。


 炊飯器からボウルへ炊き上がった白米を移し、触れるくらいに冷ます。あとは手を濡らすようの水を入れたお椀、それから塩と海苔を準備する。


「あ、えらいね。ちゃんと作り方わかるんだね」

「おいみこっち、私だっておにぎりくらい作れるんだ」


 ——数分後——


「あらー、隕石なのかなこれは」

「おかしい。なぜ綺麗な形にならんのだろう」


 みこっちと二個ずつ作ったが、みこっちのは綺麗な三角形、私のは落ちたての隕石みたいだった。


「おにぎりと会話、してるかな?」

「米村ならできるかもしれないけれど、私は声を聞くことができないらしいな」

「ダイジョウブ、ボクのアジはカワラナイヨ!」みこっちがアテレコする。

「おにぎりさんが言うなら間違いないね。よかった。じゃあ食べよっか」

「うん。一個ずつ交換しよ?」

「いいの? メテオだよ?」

「アタシ前から一回隕石食べてみたかったんだ!」

「よかった」


 それからリビングに戻っておにぎりを食べる。綺麗なみこっち作のおにぎりから。


「お。みこっちが作ったやつおいしいな。塩加減か、それともにぎり方かな……って、みこっちメテオの方から食べてるし。どう?」

「うん。小宇宙って感じ」

「褒めてる?」

「好きな味だよ!」

「……よかった」


 なんだか濁されてしまったが、私の小宇宙をみこっちはすっかり平らげてしまった。

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