<きらめく! セレンディピティ>

 とある土曜日(休日)午後一時頃――自宅


 同僚のミコッチからメッセージが届く。


『どうしようもなくテンションが上がらないのだ』

「どうした? ミコッチにしてはめずしい」

『わからん。しかしたまにあるんだなこれが』

「季節が変わるからかな?」

『うーん。……そういうことにしとく』

「OK、じゃあまた」

『ちょいちょい!? それだけ?』

「え、なに? めんどくさい」

『遊びいっていい?』

「んー。まあ、いいけど。今日はゲームすることにしたから何もないよ」


 チャイムが鳴る。


「――!?」

「お客さんでしょうか?」

「いや、ミコッチだ」

「今日は約束していたんですね」

「何秒か前にね」


 ドアを開ける。

 意味不明な日本語のティーシャツを着た観光客風の人間が一人立っている。


「よっ」

「よっ、じゃないわ。……いつの間に移動の奥義を会得した?」

「そうそう、瞬間移動で自宅からシュバってね」

「貴様、ついに人間を辞めたか。……まあいいや、どうぞ」

「お邪魔ー」


 スニーカーをさっと脱いで足で並べる。リビングルームに入るとリュックをテーブル横の椅子に乗せる。


「あ、ミコッチさん、こんにちは」

「おっスー。米っちゃん、元気?」

「はい。今日はパスタはいないんですね」

「明日まで実家から帰ってこないのだ。最初は夕方に戻るって話だったんだけど、せっかくだし泊っていったほうがいいって言ったんだ……ちょっと家が静かなのだ」

「そうでしたか。いつも騒がしいですから、いないときの静けさが妙ですよね」

「波動が足りないんだぜ!」

「ちょっとわかんないです。そういえば、パスタのお家ではみんな『パスタ』という名前らしいですね」

「なにそれ知らなかった。どうやって呼び分けるんだろう……」

「特に分ける必要がないのかもしれません」

「うーん、わからん」


 ミコッチと米村が、テレビゲームをしている一人に視線を向ける。


「新作買ったんだね」

「そうらしいです。もう、昨日帰ってきてからずっとゲームです!」

「ヤツはなかなかの切り替え上手だな……」

「どうしたんです?」

「昨日は特に忙しくてね……なんかゲンナリしてたから今日はどうかなって思ったんだけど、大丈夫そうだな!」

「ミコッチさんは大丈夫なんですか?」

「いや、それが仕事が終わると何も覚えてないんだよね!」

「それ大丈夫なんですか!?」

「今生きてることがオールオッケーの証よ!」

「生きるか死ぬかの世界なんですか!!」

「細かいことはいいのいいの!」

「なんだが、いつも以上に元気ですね」

「――そうかい? ほら、ヤツを応援するぞ!」

「はい!」


 忘れた何かは忘れたままに、きらめく何かが誰かを照らす。

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