<洗濯するしかないですね(米村)>

 とある水曜日午後九時――自宅


「ふー、さっぱりしたー」

「あ、お風呂から帰ってきました。今日はちょっと長めでしたね」

「……ちょっと寝そうになった。でも熱いシャワーでバッチリ目を覚ました!」

「ふふ、おかえりなさいです。夜なのに、目を覚ましてしまうのはどうかと思うんですけど。……あ。さっき、洗濯が終わっていましたよ?」

「おっと、すっかり忘れてた。シャワー浴びてるときって洗濯機が鳴っても聞こえないんだよね。よーし、じゃあ干そうかな。でもその前に取り込まないとだ」

「そうですね! 私も靴下を運ぶ係として、お手伝いします!」

「ありがとう。助かる。さっきまでこのままベッドに向かって寝ちゃおうっていう気分だったから、早くなるのはうれしい」

「えっへんです!」


 米村が妖精の力を少し使えば、靴下くらい簡単に運ぶことができます。


「では米村さんはこれをお願いします!」

「任せてくださいっ!」

「うん。残りは持って行っちゃうね」

「よいしょっと……」


 米村はなんて頼りになる妖精なんでしょう! ……なんて。いつか全部、私がお家のことをできたなら、それはきっと素敵なことだと思うんです。でも、まだちょっと難しいことが多いです。


「よし、お疲れさま! じゃあ私は洗い終わったの干しに行ってくる」

「はい。いってらっしゃい、です!」


 きっとお仕事で疲れているでしょうし……。それでも当たり前のように動くので、元気なように見えてしまうのですが。


「……先にたたんでおきましょう」


 お米を食べる姿を見れば、お米を噛む強さを感じれば、そのときの体調なんて、米村には簡単にわかるんです。

 米村だって、きっと役に立てるはずなのですが……


「あ、戻ってきました。少しだけ先にたたんでおきました」

「ありがとう。じゃあ私も一緒にたたむ、もしくは……たたまない。……シャツはアイロンかけるから、大丈夫だよね……うん。米村も残りは大丈夫だよ。たたまないという選択……洗濯だけに」

「5点です」

「……低い。なんだか今日は眠くて……ベッドが呼んでるみたいだから行くね……」

「それは心の声が反射しているのです」

「……?」


 もしも米村の気持ちが反射して声になったら……そうですね。

 米村の声が、『役に立ちたい』という声が反射したら、『役に立ってくれ』と聞こえるのでしょうか。……なんだかそんなことは言われない気がするのです。では、「そんなに頑張らなくても、私は米村のことを世界一愛している!」、なんて、言われてしまったりして……なんて。

 ……あれ? つまりはどういうことでしょう。

 でも、今日のところは少しだけ、好きにさせてもらいましょう!


「なんだか私も呼ばれているような気がします」

「うんうん、そうだよね。おいで」

「はい」


 反射した声かもしれません。


「よーし、じゃあ……おやすみ」

「おやすみなさいです」

「…………」

「……えっと、実はさっきのは、5点満点なのです」

「スー……」

「この速さも5点満点です」


 明日はどんな満点が見られるのでしょうか。

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