<米村と夢中>
とある祝日午後三時頃――自宅
いつもは見ないテレビ番組をソファーに座って眺める人間と、その横でいつも通りに本を読む妖精。
「ねえねえ米村」
「はい、なんでしょうか?」
「昨日の夜さ、変な夢見たんだ」
「夢、ですか」
「うん。夢はよく見るんだけど、昨晩の夢はいつもとちょっと違くてさ、今でも夢なのかわからないところがあるんだよね」
「どんな夢なんですか?」
「うーん……たしか、そのとき、夢の中で私は目覚めたんだ。ベッドで横になってるところで目が覚めた」
「目が覚めたのに夢だとわかるんですか?」
「夢って後になってわかるでしょ? そのときは夢だってわからなかった。それでね、ボーっとしていたら、上に向いてた右耳の方から、誰かがゴショゴショ言ってるのが聞こえたんだ」
「ほう……」
「それで振り向こうとしたんだけど、なぜか体がうごかない」
「そそそそそれ、金縛りじゃないですか!? 人間界の書物で前に見ました! もしかして霊の、霊的なものなんじゃないですか!? えっと、塩でしたか? 塩をまきましょう!」
「妖精が霊を怖がるのは不思議な感じだね。塩はキッチンにあるよ。――それで、振り向こうと頑張ってるうちに寝ちゃったらしくて、今朝目が覚めた」
「あわわわ、この家に幽霊がいるなんて、そんな、塩をまかなければ……」
「床掃除のときに拭いちゃうけどね。……そういえば、妖精って夢とか見ないの?」
「え? 夢……ですか。寝ている間に見るという意味で、妖精でもそういうものは見ますよ」
「そうなんだ。米村って最近なにか夢見た?」
「私は目覚めたときに、夢だと気づいた瞬間から忘れるようにしているので、あまり覚えていませんね」
「どうして?」
「だって、非現実的なもの、特に怖い夢だったら忘れた方がいいじゃないですか」
「あーちょっとわかる。私も昔ね、追いかけられてマンションから飛び降りる夢とかよく見てた時期があって、それが怖かったのは覚えてる」
「なんですかそれ怖いのですが!!」
「後になれば夢だってわかるけど、そのときはわからないのが多いよね」
「…………」
「ん? 米村?」
「…………」
「もしもーし、米村さん?」
「……あっ、はい」
「どしたの?」
「……今日、夢を見た気がします。それも怖くないものです」
「えっウソ、どんな? 教えて教えて!」
ソファーの人間が妖精に耳を近づける。
妖精にはこの近くの耳に見覚えがあった。
「忘れました!」
「えー? ウソウソ、目をそらしてるって! もー、教えてよー!」
「……です」
「……ん?」
「……お耳です」
「……?」
「やっぱり忘れました!!」
妖精が言う。
人間はこの耳の心地に覚えがあった。
「――夢って、ふとした拍子に思い出すことあるよね」
「……どうしたんですか急に?」
「いや、なんでも」
「……? そうですか」
「でも今度は直接聞かせてほしいな。私のこと――」
「あああああああぁぁぁぁあああ!!」
このあと、お互いに夢だったらしいということで結論付けた。
人間と妖精はその<夢>を、互いに忘れることはなかった。
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