<チャーハン・パラ・パラダイス!>
とある土曜日(休日)午前十時頃――自宅
前日夜の時点で天気予報による降水確率は50%といったところで、降らなければ日用品や食品を買いに出かけたかったが無理のようである。
外では雨が降っていて、空を雨雲が覆っているため昼前だというのに少し暗い。
外が全体的に灰色がかって見える。
米村は雨が好きなようで、ベランダの窓際に置いた椅子にちょこんと座ってそんな灰色世界を眺めている。白くて小さいので「座ったてるてる坊主」のようだと思ったが、胴体を縛られ吊るされる米村のシュールな光景を想像して本人に言うのはやめた。
ソファーに沈むように腰掛け昼食のことなどをしばらく考える。
レトルトなどの簡単で美味しいものはちょうど切らしていた。
なんでもいいから適当に済ませてしまおうかな。
……それは食べられるものならなんでもという意味なのか。
……味なんてどうでもいいのか。
……いや、そもそも自分に美味いものなど作れたのか。
まあ、そうだけど。
最初からできないと決めつけるのは全知か無知だけというもの。
私はどちらでもないぞ!!
決意を胸にこぶしを握る。
こうして所謂「メシマズ」という好奇心で構成された生き物は、何かを忘れているような気がしながらも、とりあえずぐるぐると藪の中を冒険し続けるのであった。
「出かけないんですか?」
米村がふわりと飛んできて私の膝にちょこんと乗る。
「雨だよ?」
「雨ですよ。恵みの。豊作の予感です」
「……うん。恵みを体感しにいくのはやめとく。ここで感謝しておく」
「そうですか」
そういえば子供の頃、土砂降りに突っ込んでいって遊んだことがあった。
今やれば気がおかしくなったとご近所に心配され、度合いによっては恐怖のあまり通報されてしまうだろう。いくら未消化の心労があるとはいえ、そんなことをする気にはならないが。
「何をつくろうかな」
「チャーハンか作るのを諦めるかのどちらかでしょうね」
「その二択しかないのかな」
「状況と可能性から考える最善の案としては最終的にその二択が正解のはずです」
「極端なことを大胆に言うと信じられそうに聞こえるっていうけど、チャーハンはなかなか良い案だね」
「簡単で誰でもある程度は美味しくできます」
「一応は結論的なものを目指してたしそうしようかな」
チャーハンなら大体わかる。大体わかっているなら調べない。
――やる!!
決意を胸にこぶしを握る。
これもまたメシマズの生態であり無知のように思われるが、私は違う。正論で叩きのめされることはわかっているが、まずやってみたいのである。
今あるものから何が使えそうか。作り方をどのよう工夫しようか。実際にやってみて想定とどう違ったか。過程やその結果をどう感じたか。
そして一通り失敗し終えてからやっと、どうすればよかったか調べるのである。
みこっちなら簡単にクリアしてしまうだろうな……
ではまず食材を選ぶところから。冷蔵庫には何があるか。
昨晩おかずが多かったためほぼ余らせた冷や飯。ちょっとしたつまみにもできるサラダチキン。麺類用に買ったカット済みのネギ。いつもなんとなく買ってしまう卵。朝ごはん用の納豆……は今回はつかわずにおく。
一応はなんとかなりそうである。次はお楽しみ、調理へ移行する。なお、私は楽しいが、米村は私が正気の沙汰とは思えない実験をしないかと心配しているようだ。
さすがの私でもそろそろ「一発で全てがダメになること」くらいは理解してきたつもりである。
まずフライパンを熱しサラダ油を入れる。
私はチャーハンについては、パラパラしたものより油でギットリとしたものが好きだが、ベッタリしたものは好きではない。
過去の失敗から調べたところ、どうやら長時間調理してしまったせいらしく、短時間で完成させるべく予めフライパンを熱しておくことにした。
冷や飯を投入しほぐしていく。
過去に肉や卵を先に炒めたことがあったが、具材が焦げてしまい卵に至っては粉々で存在感がなくなってしまったためご飯を先にしてみる。
予め割いておいたサラダチキンを投入し軽く混ぜてから、ご飯をフライパンの端に寄せ真ん中が空いた状態にする。
卵を真ん中に割り混ぜ、ある程度固まってきたらご飯と混ぜて炒める。最後に塩コショウ・オイスターソース・醤油で味付けし完成させる。
とりあえずは完成させることができた。
皿にざっと盛り、先に洗いものをさっと済ませておく。
冷たい麦茶を用意してから、食べることにする。
ちなみに味見をしないこともメシマズの生態の一つであるが、私は良いのである。なぜなら最初の一口という最高潮のわくわくを調理中に済ませたくないのだ。
こういうところなんだろうな……
「いただきます」
「めしあがってください」
「では……」
「どうですか?」
「これは、なかなかおいしい!」
「ふう……そうですか。よかったです」
米村はどこか安心したように微笑む。
実際、匂いも味も熱も見た目も私好みでなかなか良い。次は失敗の修正というよりは、どうすればもっと美味しくできるかを調べてから挑戦しよう。
それからみこっちに感想を聞くのもいいかもしれない。
正直だから、一般受けしない味についてハッキリ言われるかもしれないが、やさしいから「次、がんばろっか」と前向きなお言葉をいただく可能性もある。
「次は納豆チャーハンいってみようかな」
「えぇ……」
米村の表情がじっとりと曇る。
外ではパラりとした雨が降っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます