<パスタとギリギリ・ボルケーノ>③

「いただきます!」


 約束通り、ミコッチに昼食をご馳走になる。

 メニューはミートソースパスタ。飲み物は麦茶。それだけ。

 しかしそれだけではあるものの、白い深めの皿に山のように盛られたパスタや岩石のような挽き肉、溶岩のように赤いミートソース、もうもうと立ち上る湯気の様はもはやちょっとした火山に見える。火山のふもとからフォークでいくらか巻き取り一口食べてみた。


「……おいしい。この火山おいしい」

「でしょ。自信作だよ……火山?」

「なんでもない。相変わらずメニューは少ないけど味はおいしいよね」

「ありがとう。やっぱり食べたいものを食べたいからこうなるよね」

「子供か」

「だめ?」

「いや、別に」


 私はミコッチを天才だと思っている。私にとって難しいことを簡単にやってのける人間は多いが、みこっちはその範囲が特に広い。趣味の幅が広いのがその証拠で、柔軟にそれなりの完成度でやってのけるのは私に真似のできないことだと思う。

 正直、羨ましい。

 しかしみこっちと出会ってから、今日みたいに遊んだり一緒に過ごすうち、それなりに苦手な分野もあるということがわかってきた。

 ミコッチは文字、数字と向き合うのが苦手なようで、例えばさっきのナンプレがそれにあたる。あと仕事については確認事項が多いのが苦手っぽい。だけどここまでやってこれているのは、私の知らない努力があったからだと思う。

 ミコッチは諦めるという概念を知らない。私は苦手っぽいことに見切りをつけるのが早いけど、ミコッチは諦めない。それでダメな時は相談してくる。

 で、私は心配になって手伝ってしまうことが多い。


「ごちそうさま!」

「ごちそうさま。もう食べられない。噴火しそう」

「……噴火?」

「なんでもない。おいしかったよ。ありがとう」

「でしょ」


 昼食を食べ終えミコッチが食器を洗いに行く。ご馳走になったので私が洗おうかと言ってみたが、ミコッチはお礼だからと言いそのままキッチンに向かう。


 私は麦茶を飲みながら満腹感に浸っていると、途中からテレビゲームをしにいっていた米村とパスタが戻ってきた。どうやら米村がなにかと不機嫌になりやすいだけで、一緒に遊ぶこともあるらしい。

 パスタちゃんは米村の不機嫌も気にしないが。


 食器洗いを済ませてきたミコッチ。それからは米村、パスタちゃんも含め少しだけ談笑し、夕方になる前にはお礼を言ってミコッチ宅を後にした。

 帰り道のこと。


「うーん、どうしよう。夕飯が入る気がしない」

「身体からパスタを追い出すためにご飯をうーんと食べてもらいますからね」

「ええ……」



 ――Now Loading――



 午後十一時 みこっち宅 寝室


「みこっちは師匠と超仲良しだよねー」

「うん。同じ会社に入ってすぐ超仲良しになったよ」

「どうして仲良くなったの?」

「超かっこよかったんだよね。難しいことでも、最初から知ってたみたいにキラキラってなんとかしちゃうし。それから、難しい仕事と戦ってるときに助けてもらったりしたことがあって、お昼ご飯に誘ったのが最初のきっかけだなあ」

「師匠って、文字埋めるの超うまいもんね」

「超うまい。でも超頑張ってるのも知ってる。できるんだから休んでもいいのに、休まないこともあるんだよね……なんでだろ」

 ――それで心配になって、引っ張って遊びにいくことが多いんだ。

「マスターはやっぱりめっちゃ修業がいるんだろうなあ」

「マスターなのにね……どうしてかなあ」

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