悪夢の兆し

幽霊屋敷とは別の場所——


今宵はハロウィン。渋谷は大盛り上がりの、日本の中でも大きいイベントの一つである。


そして、そのハロウィンを楽しもうとする3人の子供達もまた、盛り上がっている。


—————————————————

「なぁ、そろそろ帰ろうぜ?

もう真夜中だよ?」

「お前だけ先帰ってろよ。俺達はまだ回るから」

「いや私達も巻き添えにしないでよ、武。」


時刻はとっくに11時を回っている。中学生の蒼空、架純、武は、町のほとんどの家を回り、お菓子を貰っていた。


この時間になると、殆どの家は戸締りをして眠ることだろう。

しかし3人は、めげずに希望を持って今も回っているのだ。


「いや、もうダメっしょ。ほとんど電気消えてるし」

「そうなのかなぁ…

まだ頑張れば行けそうな気がするけど」

「諦め悪っ」


さすがに夜なので、外を出歩く人も少ない。車ですら5分に1台、という具合だ。

「ねぇ、夜道怖いよぉ」

「なーに、ビビってんのか?蒼空。中学生のくせに」

「まぁまぁ、無理もないよ。こんな暗いんだし。」

架純がなだめる。

「じゃあさ、肝試ししね?近くに林あるし」

「はぁ?武、あんた正気なの?

もうとっくに真夜中なのよ?」

「正気だけど?」

「武、お前正気の沙汰じゃないよ…」

話し合いも虚しく、結局武の提案で肝試しをすることになった。




「着いたぜ。ここが……」

「いやあのさ、ここ公園だよね?」

蒼空が食い気味に言う。武は林だ、と言い張っているが、街の人に聞けば20人は公園だと答えるだろう。


「ま、まぁ、ここならそんな怖くないし、早速やりましょ。」

架純は強気に言うが、内心はビビっている。

「じゃあお前ら、灯り消せ。」

武が唐突に、静かに言った。

「はぁぁぁぁ!?あんた本気で言ってんの!?」

「本気だけど?だって、灯り消した方が面白いだろ。」

「あんたねぇ……限度ってもんがあるでしょ!!」

「わかったよ。ただし、1本だけな」

「1本……まぁ、ないよりはマシだよね…」

「じゃあ行くぞー」


そう言って武は足早に林の中へ入って行った。その後ろを、蒼空と架純がゆっくりとついていく。


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「あんた、ここの道分かってるんでしょうねぇ?

この公園だか林だか知らないけど、結構広いわよ?」

「一応、2、3回は下見した事がある。」

「2、3回って…」


3人はまだ林の中をさまよっている。

雲が出ているせいか、月明かりがない。

「ねぇ………もう帰ろうよぉ……」

「……」

武は黙り込み、しばらくしてから言った。

「そうだな。今日の所は、一旦帰って…」

武が振り向いた瞬間。

「…あれ?蒼空、架純?」

暗闇の所為ではない。灯りを照らすが、2人の姿は見当たらない。


「ねぇ、あの子、馬鹿よねぇ。」

「そうね、人の話も聞かず、こんな夜中なのに暗闇に入り込むなんて」


「!?」

その声は確かに聞こえた。が、どこから聞こえたのかが分からない。


「あなたは、罰を受けているのよ。」

近くから声が聞こえた。それは武にもはっきりと聞こえたらしい。


「誰だよ!?出てこい!」

「此処にいるのよ。でも、貴方には見えない。」

「まさか、幽霊!?」

「えぇ、そうよ。よく分かったわね。」


武は、不意にこんな話を思い出していた。

『ハロウィンの夜中に暗闇に入っては行けない。もし破れば、幽霊にされるだろう——』


やばい、殺される!!

武は咄嗟に逃げ出す。

「何処へ行くの?貴方は、私から逃げられはしない。」


「なんなんだよ……一体!!!」

武は部活に入っているとはいえ、運動は苦手なのだ。それ故にもうばててしまっている。


「はぁ……とりあえず、ここまでくれば…」

「大丈夫だとでも思った?」

!?

「だから言ったでしょ。私からは逃れる事はできないの。」

体が動かない。

「貴方には死んでもらうわ。私の機嫌を損ねた罰として」

「はぁ!?なんでだよ!」

「今日はハロウィンなのよ?なんで人間ごときにハロウィンを潰されなければならないの?それも、貴方の勝手な都合で」

何も言い返せなかった。

「ふーん、黙り込むのね。」

「…」


少しだけ月明かりが見えてきた。

「今、何時だ。」

「12時よ。でも、どうしてそんな事…」

「あぁ、そうか。なら…」

「なら?」

「もうハロウィンじゃねえよなぁ!」

「えっ?は?え?え?」

「もうハロウィンじゃないって事は、俺が殺される筋合いもないって事だよなぁ!」

「なんなのよ、貴方……」


金縛りが解けた。

「もういいわよ。五月蝿いし。」

「それで、蒼空と架純は?」


「あぁ、その子たちなら、私の部下が美味しく頂いたわよ。」


「……!?」

一瞬だけ気絶した。

「言ったでしょ。罰を受けてもらうって。貴方への罰よ。」

幽霊は表情1つ変えず(見えないけど)冷たく言った。

「そんな…そんな事って!!」

「あの子たちは今頃恨んでるでしょうね。貴方の所為で殺されたんだから」

何も言い返せなかった。


「さぁ、わかったらとっとと帰りなさい。私以外にも危険な幽霊は沢山いるわよ。」

帰れるかよ、と言いそうになったが、今更そんな事を言っても遅かった。

「……」


風の噂では、武はその後引きこもりになったという。

2人を殺した、張本人だと知られたら何を言われるか分からない。でも、それも時間の問題だろう。


「…くそ……」


—————————————————


「っていう事が、去年あたりにあったらしいのよ。」

アリルが急にマジ顔で話し始めたから何かと思った。


「とにかく、それもこれも全部メリアの所為。早く捕まえないと、今年も大変な事になるわ。」

「そうですね……」

アリルはカップに入っていた紅茶を啜った。

「さて、そうとなれば早速対策会議をやるわよ。ピル爺とミーとレイジを呼んできて」

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ナイトメアハウス 雪見 @Aria1545

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