呪われた人形

結局落し物の持ち主が現れないまま1週間が経った。

本当に落し物か?そう疑う時もあったが、とりあえず気長に待つことにした。


「エイルー、ちょっと頼み事してもいいかしら」


アリルの頼み事といえば、だいたい虫退治か雑談だ。

「今度は何でしょう」

「書庫に行って、『人形ノ呪イ』って言う本を取ってきてくれない?」

久々にまともな頼み事だった。

「はい、わかりました。」


迷った。書庫って何処だ?

いくら広いとはいえ、2回目は流石に恥ずかしいぞ…

どうしようか、うーん。

壁に寄り掛かろうとした。


うわっ!

ドアと共に地面に倒れこんだ。隠し扉だったようだ。

その部屋は、幸運にも書庫だった。


それにしてもこの書庫、掃除しなさすぎ…

蜘蛛の巣が至る所に張っている。


「探し物かい?」

!!!暗闇から声が聞こえた。

「何!何事!?」

「大声を出さんでくれ。耳が痛いんじゃ。」

敵ではないようだ。

「あのー、あなたは誰ですか?」

「ワシの名前はピル。ピル爺とよんでおくれ。君は?」

「僕はエイルです。最近幽霊になった新入りです。」

「ほう、新入りか。珍しいのう」


「なんでこんなところに一人でいるんですか?」

「それが、アリルに閉じ込められたきり出られなかったんじゃ。

かれこれ3カ月くらいかな。」

「なんで閉じ込められたんですか?」

「アリルがワシの事嫌いとか言うんじゃよ。困ったもんだねぇ」

「はぁ…アリルが……」

そんな雑談が続いて、目的を忘れかけすていた。

「そういえば、ここに『人形ノ呪イ』ってありますか?

アリルさんが探しているようで」

「ああ、それならちょっと待てなさい。ええと、何処にあったっけな…」

そう言いながらピル爺は闇へ消えていった。


5分後…

「あったぞー。これか?」

爺が差し出してきた本は、分厚く埃が被っていた。

埃を吹き飛ばすと、『人形ノ呪イ』と書いてあるのが見えた。作られたのはだいぶ昔だろう。

「それと、一つお願いがあるんだが…」

「はい、何でしょう。」

「ワシをここから出しておくれ。」

この屋敷の幽霊たちは大体頼み事がしょぼい。

「わかりました。一緒に出ましょう。」



「見つかった?」

「見つかりました。これですね」

本を手渡す。

「あーありがと。ちょうどこれが必要だったのよ。ってあれ?ピル爺?」

「やあ。3カ月ぶりじゃな。

この新入り幽霊くんに出してもらったんよ。」

「えぇ…せっかく封印術までかけたのに」

アリルが口をとがらせながら言う

「それより、なんでその本が必要なんじゃ?」

「それが、ある知人に、『この人形の呪いを解いてほしい』って言われたのよ。

私の能力だけではどうにもならないから、この本を使おうってことよ。」

「ほう。ならその人形をワシに見せてみなさい。」

アリルはピル爺に人形を渡した。

「ほぅ……これは…!?」

すると人形が、机の上に立ち上がって、不気味なダンスを始めた。

「これが、人形にかけられた『呪い』よ。」

人形は何かを言い始めた。

「Tutti gli umani e i fantasmi dovrebbero essere distrutti!」

何て?

「これはフランス語で、『人間も幽霊も、全て滅びれば良い』と言っているようじゃ。

この人形に呪いをかけた幽霊は、この世界に相当な恨みを抱いているようじゃな。」

「呪いは解けそう?」

「いや、それが解けそうにない。

もしかしたら、次に襲ってくる輩の手下かもしれん。」

そう、戦いは(認めたくないけど)終わっていなかった。まだ他にもあの薬を狙う奴はいるらしい。

「この人形は、しばらく預からせてくれ。何かわかるかもしれん。」

「わかったわ。お願いする事にする。」

「この人形に動きがあったら知らせるぞい。それまでに一応備えは必要じゃ。体制を整えておいときなさい。」

「わかった。ありがとう。」

ピル爺は廊下へ出て行った。


あの人形、どうも奇妙だぞ…?

僕は少し思った。


この人形のせいで大変なことになるのを、まだ誰も知らない。

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