第5話 ◯◯さんの「一服差し上げます」その2

 そこに居たのは予想外の人物だった。


 「取り敢えずそこに掛けて下さい。」


 そう言ったのは、きめ細かく純白な肌に、折れてしまいそうなぐらい華奢な体。そして、それらを嘘のように感じさせる程いきいきとした黒髪ショート。


 それと、今日一番の赤面を俺に....いや、俺らに見せたであろう人物。


 「今朝のことで、折り入ってお話が....。」


 女子A....いや、神田....。

 そこに居たのは神田だった。


 ピシャン


 突如、俺の背後からドアを開ける音が聞こえた。


 「あれ?....竹内君も?」


 そこには、早崎の姿があった。


 「早崎さんも着いたようですし、話に入るとしましょう。」


 (....いったいどうなっているんだ?)



 🍵🍵🍵🍵🍵



 シャカシャカシャカシャカ....


 抹茶を茶筅でたてる音が、12畳程の和室に響き渡る。抹茶をたてているのはもちろん神田だ。

 俺には、作法の心得なんてこれっぽちもわからないんだが、一つだけわかることがある。それは、今の神田がむちゃくちゃ美しいってことだ。


 どう表現したらいいんだかわかんないんだが、和服を着ているからだろうか。この静かな部屋にいい具合に溶け込んでいる。そして、障子越しの外からの光が彼女をいい感じに包み込んでいて、なんていうか暖かい。

 例えるのであれば、現代の小野小町といったところだろうか。流石、うちのクラスの美人8人衆が一人(俺が勝手に呼んでいるだけだけど)と言うだけのことはある。


 そんな風に俺が神田に見惚れているうちに、抹茶がたて終わったらしく、俺よりも近くに居た早崎にスッと差し出した。


 早崎は最初、戸惑っていたようにも見えたが、自分に抹茶をたててくれたということに素直に喜び、俺に「お先に」と、神田に「お点前頂戴いたします」と、お辞儀して抹茶を飲み干した。


 次に、俺にも差し出して来たので、早崎がしてたのと同じようにしてそれを飲んだ。なぜ茶碗を回してから飲むのかはわからなかったが....。


 うまい。


 それが、俺の率直な感想だった。抹茶なんて初めて飲んだから俺にはよくわからないんだが、本気マジでうまい。その証拠として、早崎が驚いた表情で抹茶の入っていた茶碗を見つめている。そして小さな声で、


 「....おいしい。」


 と呟いた。

 それだけこの抹茶はうまかった。


 俺と早崎は余韻に浸っていた。

 刹那、目の前が真っ暗になる。


 おいおい、今度はなんだよ。


 そう思った後、俺の意識は完全にログアウトされた。









 



 

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