第4話 ◯◯さんの「一服差し上げます」その1

 今、俺は作法室を目指して歩いている。

 

 なぜかって?

 ....ッフ。

理由なんてないさ。強いて言うならそこに作法室があるからかな....。


 ....なんて、かっこいいことも言えず、呼び出されたので作法室へ行く。


 作法室は部室棟3階右奥にある。中学のとき同じ学校だった先輩に聞いた話によると、昨年度までは茶道部が使っていたが、昨年までいた茶道部3年が卒業して今年も誰も入部しなかったため、今は空き部屋と化しているそうだ。

 それと、出るらしい....。なんでも、時折誰も居ないはずの作法室から、

 シャカシャカシャカ

 という音が聞こえるんだそうだ。


 ふむふむ。

 ....行かなきゃだめですか?


 そんなことを考えつつも、もう着いてしまったようだ。


 そもそも、誰が俺を呼び出したりしたのだろうか。


 作法室のドアの前にさしかかったところで、ふとそんな疑問が俺の脳裏をよぎった。

 んで、少し考えてみることにした。



 〜竹内くんの確率論的世界観の1.(俺を呼びだしたとおぼしき人物)〜


 その1. 今日受けた授業の教師諸々

「もっと授業に集中しろ」との注意のための呼び出しである可能性は十分に高い。ただ、なぜ職員室ではなく作法室に呼び出したのかは不明。


確率論的に 40%



 その2. 早崎奈那

今朝のこと、今広まっている噂のことについて話す必要性を感じ呼び出した可能性は高い。それに、作法室を単に空き部屋だと認識しているのならば、「他の人に聞かれないようにという目的で作法室をセレクトした」とも考えられる。ただ、校内放送まで使ってそんなことをするだろうか?


確率論的に 30%



 まぁ、考えられるのはこの2つか。個人的には後者であってほしいんだが....。

 ....いや。待てよ。


 その3. 校長 (繁田しげた 哲夫のりお  58歳)


 今日の授業態度が上にまで通達していたら校長面談になっていてもおかしくない。それに確か前校長が、「本校では生徒と積極的にコミュニケーションを取るために校長室は設けていません」とか言っていた気がするから、作法室での面談は十分にうなずける。すなわち....


確率論的に 97%....


 絶対これやん。

 ....ホントに行かなきゃだめですか??

ってか、このドア開けなきゃいかんのですか?


 入学してから早2ヶ月....。

 校長面談か....。

 高校では、もっとやりたいこといっぱいあったんだけどな....。

 さらば。俺の青春。


 もうこの際、思い切ってドアを開ける。そして、


 「すいませんでした。」


 取り敢えず謝る。

 これ、鉄則。


 「取り敢えずそこに掛けて下さい。」


 そう言われたので取り敢えず中に入る。

 ついでに顔も上げる。


 突如、俺の体が固まる。


 そこに居たのは予想外の人物だった。






 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る