第6話 大地と私のお好み焼き
「俺も自分の名前が好きじゃない」
大地は苦笑いをして通学帽をかぶり直した。
「どうして? 斉藤大地ってとっても良い名前だよ」
「『どこまでも広がる大地のように心の大きな人間になれ』って、俺たちを裏切って出て行った最低の父ちゃんがつけたから。イヤなんだ自分の名前」
大地はお父さんのことが大好きだったんだ。
言葉とは裏腹に。
だから苦しんでいるんだね。
大地が話してくれた。
さよならも言わず父ちゃんは出て行ったんだよ、と。
「素敵だよ。斉藤くんの名前」
「菜保子にそう言われたら嬉しい。あのさ、じゃあ大地って呼んで」
すごく恥ずかしそうにする大地の顔。
名前を呼んであげたい。
「大地君」
「大地で良いよ」
「だっ、大地」
「菜保子」
「フフッ」
「はははっ」
私たちはなんだか恥ずかしくておかしくなって一気に吹き出した。
「ねえ、大地。お昼ごはん食べてないんでしょ? うちにおいでよ」
「えっ。悪いからいいよ」
「大丈夫、大丈夫!」
私は大地の手を握って引っ張った。
大地が私の手を握り返して来たから胸がキュッとなってドキドキした。
「菜保子ん家ってお好み焼き屋さんなのか!」
大地は
「そうだよ、あんまり学校で言わないでね」
お好み焼き屋『菜の花』が私のお家だ。
私は大地を連れてお店のドアから家に帰る。
「ただいま」
私はお父さんとお母さんにいつも助けてくれる友達だからお好み焼きを食べさせたいんだって言った。
私が大地の目の前でお好み焼きを作ったら大地はずうっと驚いていた。
「すげえ」
「そうかな?」
大地のじっと見る視線に緊張したけど私は上手くお好み焼きをひっくり返せた。
「すごいや、上手にお好み焼き作れるんだな。美味しそう」
「どうぞ」
「いただきます」
大地は私の作ったお好み焼きをうまい、うまいって食べてくれたなあ。
大地は『菜の花』特製お好み焼きを食べて喜んでくれた。
私は大地が新しい父親になる人に暴力を振るわれて大地のお母さんの再婚話はなくなった。
私は大地を守りたいと思った。
心が傷ついているはずなのに大地は学校ではいつでも明るく笑ってた。
大地がうちに遊びに来てくれるようになって私達はお好み焼きをおやつに食べて宿題をした。
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