第4話 大地のお父さん

 ハッとした。

 大地が泣いて悲しんでる顔を私は初めて見たから。


 私のいだく大地の印象は明るい笑顔の男の子なの。


「斉藤君、泣いてるの?」


 私が話しかけると大地は服の袖でゴシゴシ顔を拭いた。


「見ないで。佐藤には弱い俺は見られたくない」


 私の胸はズキッと痛む。


「私は斉藤君の悲しい気持ち聞いてあげたい」


 大地はじっと私の顔を見た。


「なんで佐藤が泣くの?」

「えっ?」


 私はいつの間にか涙を流していた。


 私は大地が私を遠ざけた気がして寂しくなった。


 なにより大地が泣いてることが悲しかった。


「ごめん。佐藤にだけ話すよ。俺の父ちゃん出てったんだ。そしたらさっき新しい父親が来た」


「えっ? 本当のお父さんはお家を出てっちゃったの?」


 私はびっくりしていた。


「そうっ! もう父ちゃんはいないんだ」


 大地は滑り台をランドセルを擦りながら滑っていった。


 滑り台に取り残された私を大地は振り仰いで無理した顔で笑った。


「佐藤も降りてこいよ」

「うん」


「佐藤っ! 俺ね」

「うん」

「父ちゃんも新しい父親も大っ嫌いだっ!」


 私は滑り台を降りて大地に駆け寄り抱きしめた。


 抱きしめてあげなくちゃ大地が消えちゃう気がしたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る