第3話 知歌の気持ちを知ったから

 ――大地。


 私は自分の部屋で宿題をやり始めたけどあまり進まない。


(大地ごめんね)


「私を好きだって言ってくれてありがとう。嬉しいよ。私も大地が大好き」


 そう言いたかった。


 私は親友の知歌ちかが大地のことを好きだって知ってしまった。



 私は自分の名前が好きじゃない。

 大地も自分の名前が好きじゃないって打ち明けてくれた。


 あれは小学五年生の夏だったよね。


 菜保子なほこ

 小学生の頃は子がつくのも気に入らないし菜保子の菜も保もからかわれてイヤだった。


「菜保子の〜」

「菜保子のは保険の〜」


 私はクラスの男子に名前を馬鹿にされていた。


 先生はいない。

 そういう子たちは頭が回るので決して先生のいる前では言わない。


 私は泣きそうになっていた。

 でもぐっと涙を堪えていた。


「やめろよ! お前ら!」


 大地が私を助けに来てくれた。


「なんだよ、斉藤。良い子振りやがってえ」

「佐藤とお前、付き合ってんのかあ?」


 大地は相手の胸ぐらを掴んで「二度と佐藤をからかうなっ!」と凄んだらその子は泣き始めた。

 もう一人の男子は教室から逃げて行った。


「ありがとう斉藤君」

「いいって、佐藤。隣の席だしなんかあったら助けてやる。いつでも言えよな?」


 大地は私に微笑んだ。

 明るくてあったかくて太陽みたいだ。


『優しいおひさまみたいな斉藤君がそばにいてくれる』


 私はその日から大地を意識しちゃった。



 ある日おつかいの帰りに大地に会った。

 大地は図書館の隣の公園の滑り台のてっぺんで縮こまっていた。


「斉藤くーん」

 大地はランドセルを背負ったままだった。

 私が呼んでもなかなか大地は顔をこちらに向けてくれないから心配になった。


 私はお使いのバッグをベンチに置いた。


 それから滑り台の階段を昇って大地の肩を静かにトンっと叩いた。


(どうしたんだろう?)


 その日は午前中授業だったから給食はなかった。

 家に帰ってないの?

 お昼ご飯は食べてないのかな?


「佐藤……」


 顔を上げた大地は泣いていた。




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