第3話 娘は郷里に帰るという土産を膝の上に載せていた
私は、関西から関東の田舎県のその頃、駅弁大学と称されたとある国立大学に入った。東京までは行ったことがあったが、上野から各駅停車で2時間半の関東平野のはずれにあるこの地方都市は初めてであった。大宮を過ぎると関東ローム層の黒い土と、広がり続く麦畑が西の国と違う印象を与えた。
新幹線がつくまでは、帰阪する時は、おにぎりの弁当を2食分用意し、ウイースキーのポケットビンを窓際に置き、夜行列車を利用した。
名古屋を過ぎて一宮の駅から、私の向かいの席に、私と同い年ぐらいの女性が乗ってきた。4人がけのボックスには他の客はなく、本を読むとはなく目をやっていた私はそれを中断され、窓の外に目をやった。真夜中の人影のしない駅舎の光景は何時も寂しいもので、そのうち私のほうから話しかけた。
「何処まで帰られるのですか?」
「米原で乗り換えて、北陸の田舎に帰るのです」と彼女は答えた。
膝の上には大きな風呂敷包みが横長く置かれていた。冬のボーナスが出て、この風呂敷包の中には反物が入っていて、それもボーナスの一部だと恥ずかしそうに語り、2年も帰っていないこと、紡績の工場で働いていること、ボーナスの一部が現物支給だったけど、中身の反物はきっと母が喜ぶだろうことを静かに話した。
米原に着いた頃は、空は夜明け近い色をしていた。何時もこの夜行は大津ですっかり明けるのです。米原で止まったその列車が動き出すとき、隣のホームで誰かこちらに向かっておじぎをする姿があった。目を移すと先ほどの女性が頭を下げて挨拶してくれていたのです。
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