第5話 その少女、戦い暴かれる
テーブルから飛び出してきたセリスに、男は銃を向ける。
しかし、目の前に飛び出してきたそれはどう見ても女子高生。先ほどは撃ったものの、改めてその姿を認識すると引き金を引く指に一瞬の躊躇が生まれる。
それで十分だった。
「えいっ!」
「ぐべほぉっ!」
かわい子ぶった声とともに繰り出されるパンチ。それは文字通り鉄拳であった。
鈍い音とともに吹っ飛ぶ男、ものすごい勢いで木製のカウンターに直撃し、それっきり動かなくなる。
しかしそれでもカウンターの中の主人は動じない。延々とクロスワードに向き合っていいた。
「この……」
セリスの危険性に気づいたのか、男の一人が拳銃を彼女に向ける。しかし。
「無駄よっ」
ナターリアの手が閃く。
彼女の振るった鞭が、男の拳銃を弾き飛ばす。同時にその拳銃をジョイナス三兄弟の一人が蹴り飛ばし、残りの二人が手ぶらになった男にと襲いかかる。
鮮やかな彼女の動きに。
「いい鞭捌きね、そっちこそウチで女幹部やらない?」
「ご生憎、悪には興味ないのよ」
「そう……」
あっさりとフられ、ちょっと落ち込んだ顔のセリスは、八つ当たりとばかりに目の前に迫る黒服に飛びかかる。
その黒服は、他の黒服同様に銃を構えるが。
「はぁっ!」
目の前に着地したセリスの気合いが入った電子音声、同時に放たれた回し蹴りが構えたその銃をはじき飛ばす。
しかし。
「あ……、紺の下着……」
回し蹴りの際に見えたスカートの中身に、黒服が思わず口にする。
「これはブルマよっ!」
恥ずかしさか、怒鳴るような声と同時に、回し蹴りをした足を軸足にしてもう一回転。今度は逆の足で顎にローリングソバットを決める。
顎を蹴り上げられ、その場に沈む男。それが入ってきた黒服のラスト一人であった。
「なんだその動きは!」
「なんで制服の下にブルマはいてんだ!」
「これだからサイボーグ娘は信用できねぇ!」
一連の彼女の動きに、ジョイナス三兄弟から上がるヤジ。
しかし、セリスは長い銀髪をかき上げ、どこ吹く風と受け流す。そこに。
「アクロバティックな動きをするじゃないの」
と、ナターリア。
流石にこちらは無視をせずに。
「映画で見たのよ」
「映画で?」
答えるセリス、しかし思っていたのと違う答えにナターリアは首をかしげる。
「そうよ。なんかかっこいい動きだったじゃない、だからやってみたのよ」
「そ、そう……、練習とかしたのかと思ったわ……」
セリスの回答に、ナターリアは言葉に詰まる。
まさか映画で見ただけであの様な動きができるとは思ってもいなかったのだ。
機械の身体だから? それとも持ち前のセンス? どちらにせよ、怪力バカという認識は改めなければならない。
そう思案するナターリアに気づいたのか。
「すごい? すごいでしょ? ほら私ったら首領だからっ!」
ほどほどな大きさの胸を張り、能天気にドヤ顔を見せる当事者。
しかし、作り物のその胸より大きく立派な胸をしたナターリアは。
「すぐ調子にのる」
「あーっ!」
胸を張りすぎて体を後ろにそらし気味だったセリスの額を小突く。
そしてそのまま彼女は大きな音を立てて後ろに倒れる。
「考えるのがバカらしいわね」
ため息混じりにナターリア。
いつか彼女に賞金がかかって戦うことになる。そんな想定も考えたが、それ可能性は限りなく薄いと思うのであった。
確かにこの戦闘で見た彼女は怪力バカではないが、今後ろに倒れたそれはただのバカではあると。本人の意志はともかく、その性質は悪に染まるものではないと。
「何すんのよ!」
「なんでもないわよ」
「なんでもないのに倒されたの、私!」
立ち上がり、食ってかかるセリスを軽くいなす。そこに。
「あ、あの……」
恐る恐る声をかけてきたのは、先ほどの少女。
大事そうにクマのぬいぐるみを抱えながら、少女はセリスの前に立ち。
「い、いますごい音で倒れたんですけど、大丈夫ですか……」
今しがた盛大に後ろにと倒れたセリスを心配する。
「大丈夫よ、この子頑丈だから」
「なんで貴女が答えるのっ!?」
答えるナターリアに横のセリスは驚きの表情を向ける。
しかし、少女は心配そうな顔で、セリスのことをじっと見る。
「うーん、納得してくれなさそうね」
「そもそも私を倒した本人じゃないの、貴女」
「証拠を見せましょう」
そう言うと、ナターリアはジト目のセリスの服を掴む。
「きゃぁっ!」
突然の行動に、彼女は悲鳴を上げる。
しかし、ナターリアはその悲鳴にも全く手を止めず、ブレザー、そして中のシャツのボタンを外し、彼女の上半身を露出させて少女に見せる。
「え?」
その行動にか、露出した肌にか、心配そうな顔をしていた少女が驚きの声をあげる。
彼女の目に映ったのは、セリスの腹部。
それは、身体に沿った継ぎ目のやハッチの様な継ぎ目、そしてその下の下腹部には型番のような英数字の羅列と、バーコードが刻印されていたの。
「なにすんのっ、やーめーてー!」
ジタバタしながら悲鳴の様に叫ぶセリス。
しかし、ナターリアは手慣れた様子でハッチの様な部分に手をかけ、それを開く。
「……!」
次の瞬間、少女は驚きのあまり開いた口を手で覆う。
開いたそこには、様々な機械・配線・LEDが付いたパネル・メーターなどが露出しており、彼女の動きにあわせて、モーター音が低く響き、LEDが点滅したりメーターが上下する。
見かけの美少女とは裏腹に、その中身は鈍色の機械を中心に構築されていた。
「見ーなーいーでー!」
恥ずかしさのあまりか、顔を手で覆うセリス。そしてそのまま、彼女は近くに転がってたソファーの上でうずくまる。どうやら、中身を見られるのが恥ずかしいらしい。
そんな様子に、少女は。
「お姉ちゃん、ロボットだったんだ……」
何かを納得した様な表情で、ぼそりとつぶやく。だが。
「ロボットじゃない、サイボーグよ……」
うずくまったまま、か細い声の電子音声でセリスは答え。
「汚された 犯された 恨んでやる 呪ってやる……」
そのまま彼女は抑揚のない声でブツブツと呪詛をつぶやいていた。
「意外と繊細だったのね、お嬢ちゃん」
一連の行動の主犯ではあるが、全く悪びれないナターリア。
そして、彼女は少女の方を向き。
「それじゃ、話してもらいましょうか。一体何が起きているのか」
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