第3話 その少女、夢を語る
「また、無駄に善行を積んだわけですか……。悪の秘密結社エキュルイユとは一体……」
自分で入れた紅茶をひとすすり、あきれ顔で言うのはメイドの有栖であった。
そんな彼女の目の前では、椅子の上に正座してうなだれるセリスの姿。半ば脅しのようなメイドの行動に、その日の全て、全く悪事の体を成していない悪事から、食い逃げ犯の一件、服に空いた穴のこと、そして聞かれてもいない昼食メニューの内容まで、白状する羽目になっていた。
そして、セリスは名前の一件に話が及ぶと顔を上げ。
「いいでしょ、名前考えたのよ! ほら、私も有栖も、あとイリスも、なんか名前にリスってつくじゃない? だからエキュルイユ。どっかの国の言葉でリスって意味なのよ」
「そこじゃありません」
ドヤ顔でいう彼女を有栖が制し。
「イリスはともかく、私は与した覚えはありませんよ。私は派遣されたただのハウスメイドです」
「そうなの?」
この回答には、驚いたような表情を浮かべるセリス。続けて。
「こう、登録名簿の中から名前にリスが入ってるって理由で選んだんだけど」
「それは私が初耳です」
まさかの理由に今度は有栖が目を丸くする。
「いや、でもすごく気に入ってるよ! ほら、巡り合わせってあるじゃない!」
慌ててフォローを入れるセリス。しかし、あまりフォローになっていない。
そんな慌てふためく彼女に。
「変なお嬢様ではありますが、からかい甲斐はあるのでそれはそれで」
「でしょでしょ……あれ? もしかして私、ディスられてる?」
意地悪そうな笑みを浮かべ言う有栖に対し、いまいち不服そうなセリス。
「それはそれとして、悪の秘密結社に携わる気は一切ありませんが、ここのハウスメイドとしては全力を尽くしますよ」
「関わってくれないの?」
「関わりません」
上目遣いのセリスに、有栖はきっぱりと答える。そして。
「だいたい、悪の秘密結社って何をするのですか?」
「この今のブームに乗っかって、封鎖都市彩玉で一旗あげてやるのよ! 私たちエキュルイユが!」
有栖の問いかけに、グッとその手を握りしめるセリス。
封鎖都市彩玉、壁に囲まれているというその特殊な環境にあってか、今は悪の秘密結社がブームになっている。彩玉は国家の首都である帝都の隣に位置しているため、帝都に居れなくなったならず者たちが壁に囲まれた彩玉に逃げこんでいることが多いのだ。彩玉から出るのは難しいが、入るのはそれに比べれば容易なのである。
そして、ならず者が集まれば自然と悪の組織は増えるもので、行政組織や警察組織だけでは対応しきれなくなっており、検挙率は低下、捕まらないのでやりたい放題なのである。
「なんでそれで、悪の秘密結社に?」
「何てったって、悪って自由でカッコイイじゃない! それに私は改造人間、サイボーグよ! もういかにもそれっぽいじゃないの!」
美少女サイボーグお嬢様、セリス。彼女は形から入る派であった。
元々は高度先進実験都市と言われただけあり、彩玉には異質ともいうべき様々な技術がはびこっている。セリスのようなサイボーグ技術や、イリスのようなロボット技術などもその一つである。
「悪の秘密結社というわりには……」
「あーっ! その先は言わないでっ!」
口を開く有栖をセリスが制する。しかし。
「ココ一週間ダケデモ、Bらんく犯罪者撃退、小規模組織壊滅、徘徊老人保護、ソシテ本日ノDらんく軽犯罪者撃退トナッテオリマス」
何かの意を感じ取ったのか、イリスがすらすらと上げていく。そして。
「サキホド、彩玉警察署ヨリ感謝状ノ贈呈ヲシタイト」
「やめてー! イリス! 私をいじめないでー!」
頭を抱えるセリス。
悪の秘密結社を標榜とする彼女だが、世間から見た彼女は、ある種のヒーローなのであった。事実やっていることだけ見ればヒーローと言っても差し支えない結果ではあるが、目指す方向と全く逆の方向で高評価を得てしまっていることは、彼女にとって不服の二文字である。
「お嬢様は悪事にむいておりません」
有栖がバッサリ。
事実そうであるのだが、さすがに堪えたのか、セリスはゆっくりと立ち上がり。
「もう寝るぅ……、明日は悪いことするぅ……」
まるでバランサーが壊れたかのような足取りで、自分の部屋へと消えていくのであった。
そして、言い残すように。
「充電ケーブルの接続お願いぃ……」
「はいはい」
「カシコマリマシタ」
フラフラ歩くセリスの後ろを、有栖とイリスがついていくのであった。
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