揺れる
真文 紗天
第1話
通学路に今朝も奇妙に揺れながら歩く先輩の姿を見ると私はそれを無視できない。朝の挨拶運動は各委員持ち回りの当番制、図書委員長を任された身の上で、其れだけが憂鬱だ。
「おはようございます」私の硬い声に、
「はよー早いな今日も」先輩が軽く返す。
憂鬱の理由は彼だった。
先輩は爽やかに笑う好青年、陸上の特待生。文学に傾倒した私とは、同じ学校にいる、ただそれだけの違う世界の住人。物語の主人公は、いつだって彼のような人だろう。
だから、彼は嫌味なんて一言も言わない。
言ってはくれないのだ。
先輩は私の前を、他の人と挨拶を交わしながらゆらゆらと通り過ぎていく。
風が、サァと私の傍を抜けて行く。
嗚呼。
「……一言くらい…」掠れた声は、その背中には届かないし、校舎の中に消えてゆく先輩は振り返りもしない。
この感情はなんだろう。
やるせない、許せない、赦して欲しい。
切なくて、なのに恋なんて綺麗なものではなくて。
嗚呼、いっそ罵られていたらどんなにか楽だったろうか。
去年の初夏
インターハイ出場前だった先輩の
右脚を壊したのは私だ。
先輩
去年の初夏にインターハイ出場予定だった期待の星。運動のできる好青年。右脚を怪我した事で3ヶ月の入院と其れに伴う留年をした。
私
先輩が右脚を壊した原因となった。
図書委員長をしており責任感も強い。
半月ごとの持ち回りの朝の挨拶運動で
揺れながら歩くしかない先輩の姿を見るのが苦痛である。
揺れる 真文 紗天 @shaten
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