互いのプライドを捨て

 そしてルナソルは抱えていたラザリオを地面に寝かせユリナシア達の方を見ると、


「……すまない頼む!私はどうなっても構わない。だけど、ラザリオだけは助けてほしい。……無理な願いだとは分かっています。ですが……どうかお願いします……」


 そう言いルナソルは座ったまま、頭を深々と下げ地面に付けた。


 それを見たユリナシア達は一瞬戸惑った。


(これはどういう事だ?確かルナソルは、かなりプライドが高いと聞いていたが……)


 ガディスは不思議に思いながらルナソルを見ていた。


(ルナソルは何を考えているのでしょうか?ですが、これは私達にとっても、この場を切り抜けるチャンスかもしれません。ただ、ユリナシア様が、どう判断されるかにもよりますが……)


 クルテルがそう考えているとユリナシアはルナソルを見ながら、


「……手負いの敵を目の前にしてチャンスと思わない者はいないでしょう。ですが、貴女と戦えば、この街に被害が及ぶのは間違いありません。それに、貴女が自分を犠牲にし、ラザリオを助けたいと思う気持ちは敵ながら素晴らしいと思います。そうですね……涼香どうしましょうか?」


 そう言われ涼香は一瞬どう答えたらいいか戸惑った。


 “涼香。恐らくユリナシアは我に聞いているのだろう”


(なるほど、そうなのね。でも、バルロス。どうするの?ルナソルとラザリオを、このまま助けるの?)


 “うむ、本来ならば、ここで2人を始末してしまった方がいいのだろうが……。ただ、まだルトルシニアの力を借りる事が出来てはいない。今ここでブレグランを刺激し攻められでもすれば、我々の今の戦力では不利になるだろう”


(でも、ルナソルとラザリオを逃すという事は、それだけ不利になるんじゃないかな?)


 “確かに、そう思うのが普通なのかもしれん。だが、ルトルシニアにも四天王がいる。ガディスも四天王の1人だが、確かガディスよりも強い四天王がいたはずだ。それに、ブレグランの四天王のネフロスとラゴスは、恐らくまだ目覚める事は出来ないはず”


(そっか。確かにラザリオは強いけど。今の状態を見る限りだと直ぐに動けない)


 “今ルナソルとラザリオをここで見逃しても、回復するまで時間がかかる。もし、ネフロスやラゴスが回復したとしても同じ。それにもし、ラザリオをここで始末しようとすれば、ルナソルは攻撃を仕掛けてくるだろう”


(……要もクルテルもガディスも、今の状態だと戦う事は困難って事かな?)


 “ああ。だが、それだけではすまないだろう。今ここで戦闘にでもなれば街に被害が及ぶ”


(街に被害が及ぶってどういう事?)


 “涼香。この鉱山にはアクアリュウムの原石が埋まっている。もし、それらが魔法などに反応してしまえばどうなると思う?”


(なるほど、鉱山は崩れている、もし外にアクアリュウムの原石が飛び出していれば、魔法に反応し街にも被害が及ぶ可能性が高くなるって事よね)


 “うむ、ユリナシアもその事に気付いているはず。それなのに、わざと我に判断を委ねた。恐らくユリナシアは、自分の発言に迷いがあるのだろう”


 バルロスは少し考え、


 “涼香、すまない伝えてほしい。今の発言は間違っていない事と、後の判断はユリナシアにまかせるとな”


(うん、バルロス分かった。そうするね)


 そう心の中でバルロスと涼香は話し終えるとユリナシアをみた。


「……本当はこの事を、私が決めるのは違うと思います。ですが、私もユリナシア様が、今言った事には賛成です。確かにこのままでは街に被害が及ぶと思うので。それと後の判断は、私ではなくユリナシア様がして下さい」


 そう涼香が言うとユリナシアは頷き話し出した。


「分かりました。その後の判断は私がします。本来ならばルナソルとラザリオ貴方達をこのまま見過ごしたくはありません。ですが、先程も話した通り、今は貴方達と戦う時ではないと思います。ですので、今回だけは見逃しますが、次はないと思っていて下さい!」


「ユ、ユリナシア!?貴女は私までも助けてくれると言うのか……」


 そう言うとルナソルは有難い様な悔しい様な複雑な気持ちになった。


「ルナソル!私達は貴女達の事は見なかった事にしますので、ラザリオを連れ速やかにここを退いて下さい!」


 そうユリナシアに言われルナソルは今の気持ちを堪え、


「分かりました。……この御恩忘れません」


 そう言うとルナソルはラザリオを抱えユリナシアに深々頭を下げ、その場を後にした。


 そして、その後ユリナシア達は、要、クルテル、ガディスが少し動ける様になると鉱山を後にした。


「ユリナシア様。本当にこれで良かったのですか?」


「クルテル。先程も話したと思いますが、確かに本来ならば、私もルナソルとラザリオを逃したくはありませんでした。ですが、あの状況下ではああするしかなかったのです」


 そう話しながら、涼香達はユリナシアの屋敷へと向かった。

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