鉱山からの脱出

 ラザリオは要が放った漆黒の炎に覆われ苦しみ動けず地面にうずくまっていた。


 要はクルテルの側までくるとユリナシアからもらった回復薬をクルテルに渡した。


 クルテルはその回復薬を受けとり飲んだ。


「要、ありがとう。ですが、涼香の事がラザリオとルナソルに気付かれる前に早くここを脱出しなければ。」


「クルテル、そうだな。だけど動けそうか?」


「ええ、何とか動く事はできますが、まだ目眩がしてちゃんと立っていられません。ですが、そんな事を言ってる場合ではありませんね。洞窟ももう限界みたいで、崩れ始めてきています。」


 クルテルはよろけながらも立ち上がった。


「確かに早く脱出しないと。」


 クルテルは何とか立っていたが動くのが困難でふらついていた。そんなクルテルに要は手を差し述べた。


「ありがとう要。助かります。それでは、急ぎま………。」


 クルテルが要にそう言おうとした瞬間、要はクルテルを背中に抱え、洞窟の外へと駆け出した。



 一方ルナソルはこの洞窟の揺れとクルテルの放った魔法により目を覚まし、魔法で傷の手当てと回復を行っていた。


(ハァハァ、早くラザリオを助けないと。)


 ルナソルは要とクルテルが目の前を通り過ぎたのを確認すると恐る恐る後ろをみた。


「フゥ、行ったみたいね。」


 そう言いルナソルは苦しんでいるラザリオを見たあと辺りを見渡した。


「このままじゃ、崩れて生き埋めになってしまうわね。となると急がなきゃ!」


 そう言うとルナソルは立ち上がりラザリオの方に向かった。


 そしてルナソルはラザリオの側までくると状態をみた。


「これは魔法じゃないわね。闇属性の炎?常識では考えられない。だけど、闇属性なら私の魔法で何とかなるかもしれない。……待っててねラザリオ、今助けるから。」


 そう言うとルナソルはラザリオの真上に両手を翳し、


「神秘なる月の光よ 大いなる太陽の光よ 大気と合わさりて 我に集まれ!!」


 《光呪解 闇!!》


 呪文を唱えると、紫色に輝く光とうっすらと赤く輝く光が大気と一体となり、それらが両手に集まると神秘的な光を発した。


 ルナソルはその神秘的な光を両手に纏い闇の炎で苦しんでいるラザリオ目掛け放った。


 その光はラザリオから約5mの範囲に広がった。そして、その光がラザリオの身体を覆うと、闇の炎は跡形もなく消えた。


「これで何とか大丈夫。ただ、闇の炎は消したけど、この闇属性の炎はラザリオの体力をかなり削ったみたい。それと、今のラザリオの状態ではかなりのダメージを負っていて、ここでは完全には回復できない。そうなると、とりあえず応急処置をしてから、ラザリオを連れここを脱出した方がいいわね。」


 ルナソルはラザリオを仰向けに寝かせると、手を翳し強力な回復魔法を唱えた。


 すると、さっきまでは苦しそうだったラザリオの呼吸が落ち着いていった。


「とりあえず、これなら何とかなりそうね。ただ、ラザリオはまだ起きる事は出来ないと思うし、何とか背負ってここを脱出しないとならないけど。」


 ルナソルは無理なのは承知していたが、試しにラザリオを起こしてみた。だが、やはりラザリオは起きなかった。


 すると天井の岩壁が崩れ始め目の前に落ちてきた。


「ハッ!これは不味いわね。早くここを脱出しないと。」


 そう言うとルナソルは、ラザリオを何とか背負ってみたが、重くて歩く事が出来なかった。


 ルナソルは仕方なく、ラザリオの右手を自分の首にかけ、自分の左手を背中の方に回し支え少し引きずる感じで歩き出した。


「早くここから出たいけど、ラザリオは目を覚さないし、それにこうも重いと背負う事もできないからなかなか前に進まない。」


 そして、ルナソルとラザリオを追うように洞窟の岩壁が崩れ出した。


 ルナソルは岩壁が崩れる中をラザリオを抱えひたすら洞窟の外へと向かっていた。



 その頃、要はクルテルを背負い走り、何とか洞窟の外にでた。


 そして、要はクルテルを背中から下ろすと、荒い息を落ち着かせながら一度洞窟の方をみたあと涼香達をみた。


「ハァハァハァ、何とか外に出られたけど。」


 そう言うとユリナシアは要とクルテルの側まできて。


「要、クルテルを助けて頂きありがとうございます。それにクルテルも無事でなによりです。」


 ユリナシアはそう言うとクルテルの回復をした。


「ユリナシア様、勿体なきお言葉。ですが、私はエルラスタの大事な資源ともいえるこの鉱山を破壊してしまいました。この罪、死を持って償わせていただきます。」


 そう言うとクルテルはボロボロのバッグの中から小型のナイフを取り出し自分の首を斬ろうとした。


 それを見たユリナシアはクルテルを止めようとナイフに手を掛けようとしたその時、クルテルの手が一瞬で凍りついた。


 するとクルテルが持っていたナイフはするっと手から滑り地面に落ちた。


 クルテルは魔法が放たれた方をみた。


「ガディス。どう言うつもりなのですか?何故こんな事を……。」


「ガディス、咄嗟の判断感謝致します。」


 ユリナシアがそう言うとガディスは頭を軽く下げた。


「そして、クルテル。貴方の気持ちは分かります。ですが、あれはアクアリウムによる不可抗力。それに、この事を死を持って償うのは、私が許しません。」


「ですが、このままでは私の気持ちが晴れません。」


「そうですね。……それでは、クルテル。貴方の気持ちを考慮し、罰を与えようと思います。そうね、罰は何がいいかしら。まぁそれは後程、私が直接クルテルに命じたいと思います。」


「ユリナシア様!?本当によろしいのですか?……こんな私に優しきお言葉を……。ありがとうございます。」


「クルテル。この先ブレグラン国との戦争があるかもしれません。ドラゴノヴァ国の貴重な戦力である貴方にここで死なれては太刀打ちできなくなってしまいます。それにバルロス様も同じ気持ちだと思いますよ。」


「ユリナシア様、分かりました。微力ながらこのクルテルの命、祖国ドラゴノヴァの為に尽くしていきたいと思います。」


「クルテル、頼りにしていますよ。」


 ユリナシアがそう言うとクルテルは頷いた。そしてクルテルは、力を抑えるため目蓋を閉じた。


 そして、ユリナシア達は要とクルテルとガディスが動けるようになるまで少しここで休む事にした。



 場所は移りここは崩れ始めた洞窟の中。


 ルナソルはラザリオを抱えながら洞窟の外へと向かっていた。


 そしてひたすらラザリオを抱えルナソルは歩きやっと洞窟の入口が見えてきた。


「……あと少しで外に出れる。」


 そう言いながらルナソルはラザリオを抱え歩き洞窟の外にでた瞬間、ドォ〜ン、ゴゴゴゴゴォーと、いう音と共に鉱山の洞窟は崩れ入口が塞がれた。


 その音にルナソルは驚いた。更に追い討ちをかけるようにルナソルの目の前にユリナシア達がいて睨み付けていた。


 ルナソルはラザリオを抱えこのまま戦う事は困難だった為、この場をどう切り抜けるか考えながらユリナシア達をみていた。


(このままでは……どうしたらいいの……。)

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