アクアリュウムの原石

 ラザリオはクルテルの方に向かっていた。


 クルテルはこの場をどう切り抜けるかを考えながら、ラザリオの動きを警戒しつつ右肩を押さえ徐々に移動し間合いを取っていた。


 そして、岩壁に手をかけ気付かれないように呪文を唱え数センチ先にある斧目掛け罠をセットした。


(……子供騙しにしかなりませんが、なにもしないよりはマシでしょうし。)


 ラザリオはクルテルの近くまでくると、岩壁に食い込んでいる斧を抜き取った。


 すると罠が発動し魔法陣が現れ爆破していき、それと同時に無数の岩が飛び散りラザリオ目掛け当たっていった。


「チッ!面倒くさいな。まさか、こんな所にまで罠を仕掛けておくなんてな。」


 その攻撃はラザリオにはさほど効かなかった。


 ラザリオはクルテル目掛け斧を振り下ろそうとしていた。だが、クルテルはそれを囮に既に地面に右手を翳し詠唱を唱え始めていた。


 しかし、ラザリオはそれに気付き斧を持ち直し左足でクルテルの右手を踏みつけると、


 《猛炎脚殺!!》


 右足に業火の炎を纏わせクルテル目掛け連続で蹴りを入れた。


 クルテルはなす術なく後ろの岩壁に何度も叩き付けられた。


「グハッ!……ハァハァ、流石に、これは、キ、キツ過ぎ、ですね。ハァハァハァ……。」


(……このままでは、凌ぐ事すらままならない。ですが、何とかしなければ……。)


「クルテル、もう終わりか?ドラゴナードの4強の1人がこの程度だとはな。さて、遊びはこのくらいでそろそろ終わりにするか。」


(クッ、ど、どうしたらいい!ん?……。)


 クルテルは岩壁に寄り掛かり左手を地面につけ、何気に落ちている岩らしき物を触っていた。それは丁度、掌に収まるぐらいのサイズの物だった。


(……ま、まさか、これは……ア、アクアリュウムの原石!?あー、えっと、どうしましょう。す、素手で触ってしまいましたし。身体中に魔力が……。今のこの状態では、制御するにもかなり難しいのですが。ましてや、この洞窟はアクアリュウムの原石の宝庫。もし、私が魔力を制御できず、暴走でもしようものなら。この洞窟は……いえ、それだけじゃ済まない!)


 ラザリオは斧を振り上げ攻撃しようとしていたが、明らかにクルテルの表情が青ざめている事に気付いた。


 ラザリオはクルテルの左手を見ると、そこにアクアリュウムの原石があった。


「それは、まさかアクアリュウムの原石ではないのか?だが、何で怖いモノを見たように震えている。」


「……。」


(……不味いですね。一刻も早くここから退かなければ、それにアクアリュウムの原石の効能が加工品よりも強力だという事を知られては……。この原石をラザリオが使えば、今以上に力を増すのは間違いありません。ど、どうしたらいいのでしょう?)


「ん?何で何も答えようとしない!それとも、俺に知られちゃ不味い事でもあるのか?」


(クルテル何を隠そうとしいてる?まぁいい、確かアクアリュウムの加工品は能力と魔力を上げる効果があったはず。クルテルがこれを使えば今の戦況が変わる可能性もある。今の内に手に入れておいた方が良さそうだな。それに一気にカタをつけるのにも良さそうだしな。)


 ラザリオはクルテルの左手にあるアクアリュウムを取ろうとした。


(あ〜、仕方ない!このままラザリオに、この原石を渡すくらいなら。私がこの原石を使ってラザリオを倒した方が……いや、それだけじゃ済まないでしょうがねぇ。)


 クルテルは覚悟を決めた。ラザリオに渡すくらいならと……。


 ラザリオがアクアリュウムの原石に手を伸ばした直後、クルテルは素早く左手から右手に持ち替えた。


「なるほど、余程俺にその原石を渡したくないようだな。」


(さて、覚悟を決めたはいいですが、この後どう動きましょう。右手で直接原石に触れているせいか、魔力がドンドン上昇しているのですが。そうなると急ぎ行動しなくてはいけませんね。オーバーヒートする前に。)


 ラザリオはアクアリュウムの原石を奪おうとクルテルを掴もうとした。


 クルテルは不味いと思い咄嗟にラザリオ目掛け手を翳し呪文を唱えた。


 その魔法は先程放ったただの岩石魔法だった。だが、今のクルテルはアクアリュウムの原石のせいで魔力が徐々に上昇していた為、威力は桁違いに上がっていた。


 ラザリオはただの岩石魔法だと思い油断していた。その為、クルテルが放った魔法の無数の岩石をまともに喰らってしまい、ラザリオはガードするも後ろの岩壁まで後退させられた。


「グッ、ハァハァ、よくもやってくれたな!だが、なるほど、そういう事か。その原石さえあれば魔力と能力を上げる事ができ、そしてその威力さえも増すという事か。」


「ハァハァ、ククク……さあ、どうなのでしょう。まぁこれは言わない方がいいかもしれませんね。」


 そう言うとクルテルは何かを覚悟しアクアリュウムを右手に持ったまま両方の掌を頭上に掲げていた。

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